皮膚がんの患者に対し、外科的にがんを切除する前に免疫療法薬を投与する治療アプローチの有効性を示した2件の臨床試験の結果が、欧州臨床腫瘍学会の年次集会(ESMO 2022、9月9~13日、フランス・パリ)で発表された。試験に参加した一部の患者では、免疫療法薬の術前投与によってがんが消失し、手術の必要がなくなる可能性も示されたという。

1件目の試験は、米国、オーストラリア、欧州の切除可能なステージⅡ〜Ⅳの有棘細胞がん(扁平上皮がんともいう)患者79人を対象に、米テキサス大学MDアンダーソンがんセンター頭頸部外科のNeil D. Gross氏らが実施したもの。対象者には、手術と放射線治療の前に免疫チェックポイント阻害薬の1つである抗PD-1抗体のcemiplimab(製品名Libtayo)を最大で4回投与した。その結果、対象者の約半数(40人)が、治療後の摘出標本中にがん細胞が検出されない完全奏効(complete response;CR)を達成し、また10人(13%)では治療後の摘出標本中にがん細胞が占める割合が10%以下の状態(pathological major response)を得られたという。

2件目の試験は、米テキサス大学MDアンダーソンがんセンター眼球内メラノーマプログラムのSapna Patel氏らが、切除可能な進行メラノーマ患者313人を対象に実施したもの。同試験では、患者の半数(154人)に抗PD-1抗体のペムブロリズマブ(製品名キイトルーダ)を術前3回、術後15回の計18回投与し、残る半数(159人)には術後にのみ18回投与した。その結果、中央値で14.7カ月間の追跡期間中にメラノーマの進行や術後の再発、あらゆる原因による死亡などのイベントが発生するリスクは、ペムブロリズマブを術後にのみ投与した群と比べて術前にも投与した群で41%低かった。また、「2年間の追跡期間が終わる時点での無イベント生存率は標準治療群の49%に対して術前にペムブロリズマブが投与された群では72%だった」とPatel氏は説明している。

免疫療法薬は通常、がんが他の部位に転移した皮膚がん患者に投与される。また、がん治療が成功した後に再発を防ぐために投与されることもある。Patel氏によると、免疫療法薬には免疫系を抑制するブレーキを解除することでがん細胞への攻撃力を高める作用がある。今回報告された2件の臨床試験は、腫瘍が完全な状態で残っている方が攻撃力を高めた免疫系のターゲットが広くなるのではないかとの考えに基づき実施された。「腫瘍の摘出後よりも、腫瘍が残っている状態の方が、免疫療法薬を投与した際に引き起こされる免疫反応は強力で持続時間が長い」とPatel氏は言う。

Cemiplimabとペムブロリズマブはともに、米食品医薬品局(FDA)により承認されてはいるが、皮膚がん患者に対する手術前の使用は認められていないという。Gross氏らのチームとPatel氏らのチームはいずれも、データをFDAに提出して、これらの薬剤を手術前でも使用できるようにしたいと考えている。

ただ、米メイヨー・クリニック包括的がんセンターの皮膚科医であるAlexander Meves氏は、「皮膚がんの治療早期にこれらの免疫療法薬を使用すれば手術の必要性がなくなると判断するのは時期尚早」との見方を示す。また、皮膚がん治療で手術が重要であることに変わりはないことや、免疫療法薬の使用によって重篤な有害事象が起こり得ることなどを指摘し、「同薬の投与が適した患者の選択や手術と比べた場合のリスクとベネフィットのバランスの評価を慎重に行う必要がある」と強調している。

なお、cemiplimabの臨床試験の結果は、「The New England Journal of Medicine」にも9月12日掲載された。また、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。(HealthDay News 2022年9月15日)

https://consumer.healthday.com/9-14-new-treatment-approach-boosts-survival-for-2-types-of-skin-cancer-2658197189.html

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