末梢血を用いた抗PD-1/PD-L1抗体治療効果のバイオマーカー開発が求められている
久留米大学は7月13日、機械学習の手法を駆使して、治療前の血液中のサイトカインプロファイルから、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果と関わるサイトカインシグネチャーを発見したと発表した。この研究は、同大医学部医学科内科学呼吸器神経膠原病内科部門の東公一准教授と、神奈川県立がんセンター、横浜市立大学、味の素株式会社らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal for ImmunoTherapy of Cancer(JITC)」に掲載されている。
各種がん患者に対して免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1/PD-L1抗体)が使用されるようになっている。ただし、その臨床的効果は患者により異なることや重篤な有害事象を合併することもあるため、効果の期待できるがん患者だけを選別する「個別化免疫治療」の開発が望まれている。また、この治療は高額であるため、有効な患者を選別するバイオマーカーの開発は医療経済的にも重要な課題といえる。
現在、抗PD-1/PD-L1抗体治療におけるバイオマーカーとして腫瘍組織でのPD-L1発現や遺伝子変異の多寡などが用いられているが、その臨床的評価は定まっていない。また、腫瘍組織を用いた解析であるために患者に対して大きな侵襲を伴うこともある。従って、新しいバイオマーカー、特に、容易に採取可能な末梢血を用いて測定できるバイオマーカーの開発が望まれる。
非小細胞肺がん患者の末梢血を用い、機械学習で治療効果に重要なサイトカイン抽出
サイトカインは、主に免疫細胞から分泌される低分子のタンパク質からなる生理活性物質であり、周囲の免疫細胞などにさまざまな影響を及ぼすことにより、細胞間の情報伝達因子として重要な役割を担っている。研究グループは、機械学習の手法を駆使して、93種の末梢血サイトカインから免疫治療の有効性と関わる重要なサイトカインを抽出し、そのシグネチャーを用いて免疫チェックポイント阻害薬の治療効果を予測できるかどうかを検討した。
今回の研究では、抗PD-1/PD-L1抗体治療を受けた進行・再発非小細胞肺がん患者222人(探索コホート123人、検証コホート99人)から治療開始前に採取した血液を用いて、血中サイトカイン濃度をマルチプレックスサスペンションアレイ法で網羅的に計測した。Random Survival Forestという機械学習のアルゴリズムを用いて、各サイトカインの全生存期間予測における重要度を調べたところ、Osteopontin、CX3CL1、IL-11などの14種のサイトカインが抽出された。
抽出された14種サイトカイン濃度から全生存期間の予測モデル構築
機械学習により抽出された14種の重要サイトカインの濃度を用いて、全生存期間の予測モデル(preCIRI14)を構築した。このモデルにより計算された予測リスクスコアを用いると、予後良好群と予後不良群の間に全生存期間の有意な違い(P<0.0001)が確認され、治療効果の高い患者を高精度に予測できることが判明した。
臨床情報7因子を取り入れ、予測性能の向上に成功
治療効果の予測性能をさらに向上させるため、患者の年齢、性別、病期、BMI、血漿アルブミン、好中球・リンパ球比、腫瘍PD-L1発現、など入手可能な臨床情報7因子を取り入れ、全生存期間を予測するモデル(preCIRI21)を構築した。重要サイトカインのシグネチャーと臨床情報の組み合わせにより、治療効果の予測性能がさらに向上することが確認できた。
これらの結果から、末梢血のサイトカインシグネチャーを用いて免疫チェックポイント阻害薬の長期的な治療効果を予測できることが明らかとなり、低侵襲かつ高精度なバイオマーカーとしての新規性・有用性が示された。
予測リスクスコアとの相関関係から、各サイトカインの重要性も明らかに
preCIRI14モデルを用いて算出された免疫治療効果の予測リスクスコアと各重要サイトカインとの相関関係を調べたところ。Osteopontin、CX3CL1、IL-11など大半のサイトカインは予測リスクと正の相関を示し、予後不良群に濃度が高い傾向が確認された。このように、免疫治療をうけるがん患者において各サイトカインの重要性を検討することは抗腫瘍免疫のメカニズム解明や新規治療法の開発に貢献すると期待される。
「研究の成果として、末梢血サイトカインシグネチャーが免疫チェックポイント阻害薬の臨床効果を予測するバイオマーカーとして臨床応用されれば、『個別化がん免疫治療』が可能となり、高い効果の期待される患者を選択することによる治療成績の向上や、不必要な治療による不利益(有害事象合併・医療費浪費)の回避につながるものと期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)