多要素プログラムのデイケアがMCI患者の脳の機能的変化に与える効果について検証
筑波大学は7月13日、軽度認知機能障害に対する長期多要素デイケアには局所脳血流量の低下予防効果があることがわかったと発表した。この研究は、同大医学医療系の新井哲明教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Psychogeriatrics」に掲載されている。
認知症の人の数はほぼ全ての国と地域で増加し続けており、WHOの報告では、2018年の時点で全世界に約5000万人と推計されている。日本における認知症の人の数は2012年時点で462万人、そのうち65歳以上の高齢者の有病率が15%と推計されており、認知症患者の増加による医療や介護における負担をいかに減らすかが喫緊の課題となっている。
軽度認知機能障害(mild cognitive impairment:MCI)はアルツハイマー型認知症などの認知症の前駆状態と定義されており、認知症の早期発見・治療を考える上で非常に重要な時期といえる。MCIの非薬物療法としては、高血圧や糖尿病、脂質異常症等の生活習慣病の管理の他、運動療法・認知療法・音楽療法などを組み合わせた多要素プログラムが有益であることがすでに知られている。しかし多要素プログラムがMCI患者の脳の機能的変化に与える効果については研究報告が少なく、十分なエビデンスの構築がなされていないのが現状だ。
そこで今回、研究グループは、筑波大学附属病院の多要素デイケアを利用するMCI患者の脳血流検査(single positron emission computed tomography:SPECT)を縦断的に解析し、運動療法・認知療法・音楽療法を主体とする多要素プログラムによるデイケア活動が、MCI患者の脳の機能的変化に与える効果について検証した。
多要素デイケアを平均2年継続のMCI患者にSPECT実施
研究グループは、多要素プログラムによるデイケア活動がMCI患者の脳の局所脳血流量の経時的変化に及ぼす効果について検証するために、平均2年間程度にわたってデイケアを継続的に利用しているMCI患者に対して、期間中、2回以上の脳血流SPECT検査を実施。同病院では、週に3日の頻度で多要素デイケア活動が開催されており、利用者は参加する曜日を固定した上で、週1日(午前2時間と午後2時間の2セッション実施)のペースでデイケアに参加している。
各セッションでは、「運動療法」「認知療法」「音楽療法」「芸術」「アロマセラピー」「レクレーション」の6つのプログラムの中の1つが実施されたが、参加する曜日でプログラム組成の偏りが生じないよう月単位でプログラムが構成され、利用者には前もって予定表が伝えられた。デイケアに参加しつつ2回以上のSPECT検査を受け、その期間中に認知症に進展しなかったMCI患者24名(平均74歳)を解析の対象とした。
出席率が高いほどアルツハイマー型認知症で顕著な脳血流量低下「小」
その結果、アルツハイマー型認知症で顕著にみられる右頭頂葉領域の脳血流量の経時低下量とデイケアの出席率との間に負の相関がある(デイケア出席率が高いほど、脳血流量の低下が小さい)ことが明らかになった。
年単位での継続的なデイケア参加者に対する介入結果をSPECTで評価した世界初の事例
今回の研究結果は、長期にわたる多要素デイケアへの参加が脳血流量の低下を予防する効果を有することを示したもの。すでに、多要素デイケアが認知機能の改善・低下予防に効果があることと、数か月程度のデイケアへの参加による脳形態への影響は研究されていたが、年単位で多要素デイケアに参加するMCI患者を対象に、デイケア活動の介入結果を脳血流SPECTで定量的に評価した研究は今回の研究が世界初だという。
研究グループは先行研究で、頭部MRIを用いて同様の検討を行い、多要素デイケアの出席率が高いほど、左前頭葉(吻側前部帯状皮質)の容積が保たれる傾向があることも明らかにしている。今後は、さらに症例数を増やすとともに、多要素デイケアにおける最も効果の高いプログラム比率の確立や、週に何時間の介入が最も効果的であるかなどを検討し、多要素デイケアによる認知症の予防を推進していく予定だとしている。(QLifePro編集部)