脂肪性肝炎の発症や肝臓の線維化進行における腸内細菌叢の関与をモデルマウスで解析
富山県立大学は2月21日、腸内細菌叢の変化が、メタボリックシンドロームの肝病変である脂肪性肝炎の発症や線維化の進行に関わることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大工学部医薬品工学科の長井良憲教授、葛西海智氏(大学院博士前期課程)、古澤之裕准教授、河西文武講師、徳島大学大学院医歯薬学研究部の常山幸一教授、清水真祐子講師、富山県薬事総合研究開発センターの柳橋努主任研究員、髙津聖志所長らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Molecular Sciences」にオンライン掲載されている。
近年、食生活の欧米化などにより、日本でも肥満を中心とするメタボリックシンドロームや糖尿病が増加しており、大きな社会問題となっている。また、メタボリックシンドロームでは、飲酒量が少ないにも関わらず肝臓に脂肪が過剰に蓄積する「非アルコール性脂肪性肝疾患」が合併することがわかっている。同疾患は、全世界人口の約25%、日本国内でも1000万人以上の患者がいると考えられている。
さらに、脂肪蓄積から脂肪性肝炎、肝硬変、肝がんへと移行することが明らかになっており、脂肪性肝炎はウイルス性肝炎に代わり、肝硬変および肝がんの主要な原因となると考えられている。しかし、脂肪性肝炎の治療薬や予防薬は無く、世界中の製薬企業が開発に取り込んでいる。このような背景から、脂肪性肝炎の発症や線維化が進行し、がんが発症するメカニズムを解明すること、また、ヒトの脂肪性肝炎と類似した病変を呈するモデル動物の開発が重要であると考えられてきた。
メタボリックシンドロームの発症には、腸に常在する腸内細菌叢の多様性の減少が関係していることが明らかになっている。さらに、メタボリックシンドロームに対して良い作用または悪い作用をする善玉または悪玉の腸内細菌の存在が報告されている。このような背景から、腸内細菌を調整することで、脂肪性肝炎を予防または治療する方法の開発について、関心が集まっている。
そこで研究グループは今回、徳島大学が開発したヒトの脂肪性肝炎に類似した肝臓病変を呈するマウスを用いて、脂肪性肝炎の発症や肝臓の線維化進行に関与する腸内細菌叢の役割を解析した。
脂肪性肝炎誘導マウスでは、免疫の維持に関わる腸内細菌などが減少
研究では、マウスに脂肪性肝炎を誘導する餌を4週間または8週間摂取させ、糞便から腸内細菌のDNAを抽出し、その種類や変化を検討した。
その結果、誘導食を食べたマウスでは、正常マウスと比べて、腸内細菌の種類が変化することが判明。変化した細菌の中には、免疫の維持に関わる細菌や肝臓の線維化により減少する細菌が含まれていたという。
グラム陽性菌の抗生剤投与で肝炎や線維化が悪化、マクロファージ集積の関与が示唆
また、抗生剤を誘導食摂食マウスに投与し人為的に腸内細菌を減少させたところ、グラム陽性菌を減少させる抗生剤バンコマイシンの投与により、肝臓の炎症や線維化が悪化。肝臓を詳しく解析した結果、死んだ肝細胞を処理するマクロファージが肝臓に多数集積していることが判明した。研究グループの以前の解析結果から、このマクロファージは肝臓の線維化に深く関与することがわかっていた。
以上のことから、バンコマイシン投与による腸内細菌叢の変化がマクロファージを介して、脂肪性肝炎の炎症や線維化の悪化に関わることが示唆された。
嫌気性菌の抗生剤投与では、脂肪性肝炎マウスの炎症や線維化が改善
一方、嫌気性菌を減少させる抗生剤メトロニダゾールの投与により、脂肪性肝炎マウスの炎症や線維化が改善する傾向を示した。
この結果から、メトロニダゾール投与によって減少した細菌の中に脂肪性肝炎の発症や悪化に関わる菌が存在し、反対にバンコマイシン投与で減少した菌の中に脂肪性肝炎を抑制する菌が存在することが示唆された。
腸内細菌叢の役割解明が、脂肪性肝炎の予防・治療薬開発につながることに期待
今回の研究成果により、メタボリックシンドロームに伴う脂肪性肝炎において、腸内細菌叢の変化が進行性の肝臓線維化の発症や悪化に深く関わることが明らかとなった。
「使用した脂肪性肝炎マウスはヒトに類似した病変を示すことから、今後、腸内細菌叢の詳しい役割を調べることで、脂肪性肝炎の予防薬や治療薬の開発などにつながることが期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)