患者の体壁への負担軽減・医師の操作性向上を目指した設計
岡山大学は10月28日、岡山県内で初となる国産手術支援用ロボットhinotori(TM)を用いた胃がん手術を成功させたと発表した。この研究は、同大学術研究院医歯薬学域(医)消化器外科学の藤原俊義教授、黒田新士准教授ら、シスメックス株式会社の研究グループによるもの。

画像はリリースより
手術支援用ロボットを用いた手術は、日本では2018年に胃を含む消化器領域に適応拡大され、現在ではさらに多くの臓器における最先端治療として普及の一途をたどっている。その特徴は、人間の手のような多関節機能や人間では再現できないロボットならではの手ぶれ防止機能などで、従来の開腹手術や内視鏡手術と比較して、より精密な手術が可能になる点にある。手術支援用ロボットとしては、米国産のダヴィンチが現在日本を含め世界中で最も普及している機種だ。岡山大学病院では現在ダヴィンチ3台が稼働しており、胃切除約40件を含む年間650件以上(2024年度実績)の手術を複数の診療科で行っている。
hinotoriは国内メーカーであるメディカロイド社(川崎重工業株式会社とシスメックス株式会社が共同で設立)が開発した手術支援用ロボット。2020年に泌尿器科領域で薬事承認を受け、2022年に消化器領域にも適応拡大された。2025年10月現在、日本全国で約90台が稼働しており、岡山大学病院にもこのたび、岡山県内で3台目となるhinotoriが導入された。hinotoriの特徴の一つにドッキングフリーデザインがあり、患者の体壁への負担軽減と医師の操作性の向上を可能にした設計となっている。また全体的な操作性もダヴィンチと類似点が多く、ダヴィンチの操作に慣れた医師や施設においては、問題なくhinotoriを用いた手術を行えているとの報告が散見されている。
hinotoriによる胃がん手術の臨床試験、10月上旬に1例目の手術成功
今回研究グループは、胃がんに対するhinotoriを用いたロボット支援胃切除術の臨床試験を開始し、2025年10月上旬に1例目の手術を行った。手術は成功し、患者の術後経過も良好で、術後9日目に自宅退院となった。このhinotoriを用いた胃がんに対する手術は岡山県内では初であり、消化器領域のがんに対しても初の症例となる。
手術の安全性/医師の有用性/患者の利点など検証
この臨床試験では、hinotoriを用いた胃がん手術の安全性(hinotoriを用いて手術を完遂できるか否か、手術中と手術後の合併症の発生頻度など)、医師にとっての有用性(ダヴィンチと比較して操作性がどうかなど)、患者にとっての利点(手術後の傷の痛みがどうかなど)などを検証することを目的としている。
将来的に遠隔手術による地域医療支援にもつながると期待
国産ロボットであるhinotoriに期待されることの一つに遠隔手術がある。遠隔手術に向けた取り組みは世界中で行われているが、その実現には機器の開発だけでなく通信インフラや倫理面での課題解決と歩調を合わせる必要があるため、外国産ロボットでの開発は難しい側面があり、国産ロボットであるhinotoriに期待されている点である。この遠隔手術は、高齢化社会や人口減少に伴い問題となっている医療の地域格差の是正に期待されている医療技術であり、外科医不足に悩む地域の外科医療の質向上に資する可能性を秘めている、と研究グループは述べている。(QLifePro編集部)
