死亡リスクの高い敗血性ショック、発生頻度や死亡率等の全国規模のデータはなかった
千葉大学は9月4日、Diagnosis Procedure Combination(DPC)の保険請求データを用いて2010~2020年の約8200万件の入院データを解析し、日本における「敗血症性ショック」の患者数や死亡率の全国的な実態を、初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の中田孝明教授、医学部附属病院の今枝太郎助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Critical Care」に掲載されている。

画像はリリースより
敗血症は、細菌やウイルスなどの感染に対する体の反応が過剰となった結果、心臓・肺・腎臓などの自らの組織や臓器に障害をもたらし、生命を脅かす病態である。さらに「敗血症性ショック」は、こうした敗血症に加えて重度の循環不全を伴い、血圧が著しく低下し、昇圧薬の投与が必要となる最重症の段階である。集中治療室(ICU)での高度な管理が求められることが多く、非常に高い死亡リスクを伴う。
敗血症は世界でも高い死亡率を示す重篤な感染症関連疾患であり、国際的にも対策が求められる重要な課題である。発症率や死亡率は、医療体制や人口構造によって地域差があるとされており、自国の医療環境に即した疫学的な把握が不可欠である。日本においては、集中治療や感染症対策の向上に伴い敗血症診療は進歩してきたが、これまで全国規模で敗血症性ショックの発症頻度や死亡率、医療資源の利用状況を明らかにしたデータは存在せず、従来の報告は限られた施設やICUに限定されていた。
こうした背景のもと、日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本感染症学会を中心とする「Japan Sepsis Alliance(日本敗血症連盟)」が2019年に設立され、全国レベルでのデータに基づく解析が進められてきた。中でも、日本の包括的診療報酬制度に基づくDPCデータは、全国の急性期入院医療を対象とした大規模かつ標準化された医療情報を含み、敗血症性ショックの実態を精密に把握するための有用な情報源といえる。
敗血症性ショックの院内死亡率、10年間で46.7%から33.2%に改善も依然として高い
今回の研究は、日本全国で広く用いられているDPCデータを用い、敗血症性ショックの実態を明らかにすることを目的とした。DPCデータでは、「敗血症」や「敗血症性ショック」という病名が必ずしも登録されていないため、研究では血液培養を実施し、4日間以上の抗菌薬投与を受けた患者を重症感染症患者として抽出し、その中で臓器障害を伴う症例を敗血症と定義した。さらに、敗血症患者のうち昇圧薬を必要とした症例を敗血症性ショックと定義して抽出した。解析対象は、2010~2020年の11年間にわたる8200万件以上の入院データであり、敗血症性ショック患者の数や死亡率の推移、患者背景、入院期間、ICU利用状況などを包括的に検討した。
結果、日本における2010年~2020年の敗血症患者は約442万人で、うち約65万人(14.7%)が敗血症性ショックに分類された。敗血症性ショック患者の院内死亡率は36.5%で、非ショック敗血症患者(20.0%)に比べて明らかに高かった。また、敗血症性ショック患者は、非ショック群よりも年齢が若く(中央値75歳vs78歳)、腹部感染症の割合が高い(40.7%vs21.9%)という特徴があった。入院期間の中央値は38日(非ショック群は25日)と長期化しており、ICU入室率も50.7%に達した。
2010~2020年における傾向の変化をみると、敗血症性ショック患者の院内死亡率は、2010年の46.7%から2020年の33.2%へと改善した。入院患者全体に占める敗血症性ショックの割合は、2010年の0.64%から2020年には0.83%に増加した。入院患者1,000人あたりの死亡者数は、ショック群では2.8人から2.4人へとわずかに減少した一方、非ショック群では7.0人から8.2人へ増加した。敗血症性ショック患者の平均入院期間は、2010年の61.0日から2020年の53.6日へと有意に短縮した。
患者背景による違いをみると、高齢の患者では死亡率が高い傾向があり、85歳以上では常に40%を超えていた。男女とも死亡率は低下していたが、男性では女性に比べて一貫して高い傾向がみられた。ICUに入室しなかった患者群では、入室した患者群に比べて死亡率が高い傾向がみられた。
ただし、これらはいずれも患者の背景や重症度などを調整していない観察結果であり、直接的な因果関係を示すものではない。
高齢社会における感染症予防策の強化、集中治療資源の適切な配分が急務
今回の成果により、日本における敗血症性ショックは依然として高い死亡率を示しており、今後も医療体制の強化と個別対応が求められることが明らかとなった。高齢化の影響もあり、敗血症性ショックを含む敗血症の患者数や死亡者数は増加し続けているため、今後も社会的・医療的負担が拡大することが予測される。敗血症の早期発見・治療だけでなく、高齢社会における感染症予防策の強化や集中治療資源の適切な配分が急務であることを示している。
「年齢に応じた対策(高齢者に特化した治療方針)、性別による差を考慮した治療戦略、入院の効率化と早期退院を目指した医療連携、ICU入室の適正化と医療資源の配分見直しといった取り組みが、日本の高齢社会における医療の質の向上に直結すると考えられる」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)