免疫チェックポイント阻害薬に対する抵抗性、メカニズムは未解明

東京科学大学は9月1日、転移性尿路上皮がんが免疫チェックポイント阻害薬(ICI)に対する耐性を獲得するメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大総合研究院M&Dデータ科学センターAI・ビッグデータ研究部門AI技術開発分野の鎌谷高志講師、慶應義塾大学医学部泌尿器科学教室の梅田浩太共同研究員、田中伸之専任講師、大家基嗣教授、東京大学大学院理学系研究科の角田達彦教授(兼・同大新領域創成科学研究科教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」のオンライン版に掲載されている。

画像: 画像はリリースより

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転移性尿路上皮がんでは、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)が2017年に承認されて以降、ICIによるがん免疫療法が標準治療となっている。しかし、ICIが無効な症例や耐性を獲得する症例が後を絶たず、このような症例の克服が臨床上の課題である。

近年、技術的な進歩によって、がんの遺伝子異常の解析が進み、腫瘍内には遺伝子の一部が変異したクローンが何種類も不均一に存在し、一つの腫瘍といっても各クローンから増殖が起こる(多クローン性増殖)ことがわかってきた。しかし、がん免疫療法中に生じる多クローン性増殖の原理や腫瘍周囲に存在するさまざまな組織や細胞で成り立つ微小環境への影響はほとんど知られておらず、ICIが無効になったり、耐性が生じたりする理由は依然として解明できていなかった。

同一患者の8部位・58か所で抗PD-1療法に対する反応性を分析

今回の研究では、転移性尿路上皮がんの病理解剖例において、腫瘍部位間での抗PD-1療法に対する反応の違いを検証した。原発巣と転移巣合わせて8部位の評価病変のうち、原発巣や傍大動脈リンパ節の転移巣の一部、頸部リンパ節の転移巣には免疫療法の効果が見られた一方、腫瘍辺縁や肺、傍大動脈リンパ節の転移巣の一部、後腹膜リンパ節の転移巣には効果が確認できなかった。

そこで、これら8部位を対象に各部位の全ゲノムシーケンスを行った。さらに8部位に対して合計58か所の評価点を設定し、多領域全エクソームシーケンスとRNAシーケンスを実施した。

同一患者内における腫瘍の不均一性が明らかに

全ゲノムシーケンスにおいて、同一患者内で8部位の腫瘍それぞれにパターンの異なる遺伝子変異が検出された。全エクソームシーケンスでは、多くの変異のパターンは臓器内・臓器間を問わず一致していたが、一部の変異のパターンは同一臓器内でも異なっていた。多くの遺伝子変異は部位と部位の間で共通するものの、部位ごとに特異的な変異やコピー数の多型、構造異常、活性化された生物学的経路も存在することが示唆された。この結果から、同じ臓器内でも異なる場所では異なる表現型が誘導される可能性があることが明らかになった。

ICI抵抗性部位に多く存在する2種類のサブクローン#12と#14を同定

全エクソームシーケンスのゲノムデータから、腫瘍空間に存在するクローン集団の構造を推測できるツール(パイクローン)を用いて多クローン性増殖の詳細を調べた。その結果、19個のサブクローンが同定された。特定のサブクローンの存在が、臓器間のICI感受性に影響を与える可能性を考慮し、19個全てのサブクローンの組織内分布を調べたところ、2つのサブクローン(#12と#14)が、ICIの効果がみられなかった部位に多く存在しており、「悪性クローン」であることが示唆された。

#12はM2マクロファージと共在、#14の存在箇所では細胞障害性T細胞が疲弊

次に、サブクローン#12と#14が生息する部位を対象に空間トランスクリプトミクスや単一細胞解析を行い、これらのクローンをマッピングした。まず、悪性サブクローンに特徴的なマーカー遺伝子を定義し、空間トランスクリプトームデータを組み合わせることで、サブクローン#12・#14に対応する空間トランスクリプトミクス上の細胞集団を同定した(サブクローン#12:Visiumクラスター10、サブクローン#14:Visiumクラスター13/14)。

さらに、空間トランスクリプトミクス上でサブクローン#12・#14に対応する領域の免疫環境を調べたところ、サブクローン#12が存在する箇所では細胞障害性T細胞とともに悪性のM2マクロファージの浸潤が確認された。一方、サブクローン#14が存在する箇所では、細胞障害性T細胞の疲弊が特徴的であり、免疫の抑制がコントロールされていないことが示唆された。

#12はがん幹細胞性、#14は細胞増殖能の亢進を示す遺伝子プロファイル

遺伝子発現解析では、細胞表現型が2つの悪性サブクローン間で顕著に異なり、サブクローン#12はがん幹細胞性の特徴を示し、サブクローン#14は細胞増殖能の亢進を示すことが明らかになった。これらの結果はシングルセルRNAシーケンスデータでも確認され、空間トランスクリプトミクスから得られた悪性サブクローンの特徴がより明確化された。

以上から、悪性サブクローン#12と#14は、単一細胞レベルでも異なるがんプロファイルを持ちつつ同一患者内で共存し、固有の免疫抑制環境を形成していることが判明した。

ICI耐性獲得の新たなメカニズム、がん免疫療法の改良に期待

今回の研究によって、転移性尿路上皮がんがICIに対する耐性を獲得するメカニズムとして、がん細胞の生存過程でがん原性の遺伝子変異が繰り返し生じ、多種の悪性サブクローンが生まれて、ICIでは克服できない免疫抑制環境を作り出していることが明らかになった。

近年、腫瘍内部に悪性サブクローンが共存することが予後不良に関連する、すなわち一部の悪性度が高いサブクローンが腫瘍全体の挙動に影響を与えるという 「悪いリンゴ(bad apple)」概念が注目を集めている。「本研究によって得られた知見は、ICIの効果を高めるためのサブクローン標的戦略や免疫微小環境の改変など、将来のがん免疫治療の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。(

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