より早く正確な前臨床ADのスクリーニング方法が必要

慶應義塾大学は6月12日、血液検査でアミロイドβ(Aβ)42/40比を評価することによって、アミロイドPET検査の視覚読影よりも早期にアルツハイマー病(AD)の中心的病理である脳内Aβ沈着を高精度に判別可能であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部の窪田真人助教(現:みんなの在宅クリニック国分寺)、内科学(神経)/同大学病院メモリーセンターの伊東大介特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Alzheimer’s Research & Therapy」のオンライン版に掲載されている。

画像: 画像はリリースより

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厚生労働省の推計によれば、2025年には65歳以上の認知症患者(472万人)および軽度認知障害()患者(564万人)が合わせて1,000万人を超えるとされている。認知症は医療や介護の枠組みを超えて、日本社会の持続可能性に関わる重要な政策課題となっている。この中でも、ADは最も頻度の高い認知症の原因であり、脳内に異常に蓄積するAβが発症に深く関与している。Aβの蓄積は神経細胞の変性を引き起こし、認知機能の低下をもたらす。

2023年末に、ADの進行を抑制する疾患修飾薬(抗Aβ抗体)が国内で承認され、日本のAD治療は大きな転換点を迎えた。同薬剤は日常生活機能の低下を抑制する初の治療薬として期待されているが、現時点では「MCI」および「軽症AD」に限って投与が認められており、早期の治療開始が重要とされている。また、近年のAD疾患修飾薬の多くは、治験対象を認知症の治療から症状の出現する前の前臨床ADへとシフトしており、二次予防への取り組みが注目されている。そのため、前臨床ADをできるだけ早期に、かつ正確に診断できるスクリーニング方法が求められている。

ADの血液バイオマーカー、日本では検証が不十分

現在、ADの疾患修飾薬の適応診断には、腰椎穿刺による脳脊髄液検査およびアミロイドPET(視覚読影)が保険適用されている。しかし、前者は侵襲性が高く、後者は費用や設備の面での制約がある。また、保険収載されているアミロイドPETの判読方法である視覚読影では、早期のアミロイド沈着を正確に判別することが困難であるとされている。

一方で、血液バイオマーカーによる非侵襲的かつ簡便な評価法の開発が進んでおり、米国では2025年5月に初の承認を取得した。しかし、早期診断の精度、コストや検査体制の課題が残り、日本では日常診療への本格導入には更なる検証が必要な状況だ。

日本人コホートでADバイオマーカーの性能を評価

今回の研究では、日本人認知症コホートを対象に、血漿バイオマーカーによるADの診断および病期評価の有用性を検討した。評価したバイオマーカーは、「Aβ42/40比」「リン酸化タウ(p-tau181およびp-tau217)」「グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)」および「ニューロフィラメント軽鎖(NfL)」で、いずれも簡便な血液検査で調べることができる。健常対照69例、前臨床AD13例、AD-MCI38例、AD軽度(早期)(AD-D)44例、非AD性認知症(CI)79例を被験者とした。

Aβ42/40とp-tau217がADを高精度に予測

ROC解析では、Aβ PET陽性(アルツハイマー病病理を有する)を予測するAUCは、Aβ42/40が0.937、p-tau217が0.926で、いずれも高精度だった。感度はp-tau217(0.905)、特異度はAβ42/40(0.947)が最も高く、有望な指標であることが明らかになった。

Aβ42/40はアミロイドPETより早期に病理変化を反映

病期評価において、Aβ42/40は前臨床期から有意に異常値を示し、p-tau217は疾患の進行に応じて直線的に上昇した。特に、Aβ42/40はカットオフ値0.096で二峰性の分布を示し、アミロイドPETの定量値19.3 centiloid(CL)の段階でAβ沈着を判別可能だった。これは、現在保険収載されているアミロイドPET視覚読影の閾値(32.9 CL)よりも早期の病理変化を捉えていることを示している。

負担の少ないADスクリーニング法として期待

現在、血液バイオマーカーのみでADの診断や抗Aβ抗体治療の適応判断をすることはできない。今回の研究により、血漿Aβ42/40およびp-tau217、その比率(p-tau217/Aβ42)は、AD診断におけるアミロイドPETの代替となる高精度な指標として有望であることが明らかになった。特に、High Sensitivity Chemiluminescence Enzyme-immunoassay(HISCL)を用いたAβ42/40測定は、既存のPET検査視覚読影よりも早期にAβ蓄積を検出できると期待される。

抗Aβ抗体治療は、現在「MCI」および「軽症AD」に限定されているが、その病態特性から認知機能障害の出現前、すなわち前臨床AD段階での先制的介入に最も効果を発揮すると考えられる。「全自動免疫測定装置HISCLを用いたAβ42/40測定は、簡便かつ多数の検体処理が可能で、来るべきAD先制医療(二次予防)における有用なスクリーニングマーカーとなり得る」と、研究グループは述べている。(

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