近年増加傾向の胆道がん、KRAS遺伝子変異の病態や治療への影響は未解明だった
慶應義塾大学は6月13日、7,773例の胆道がん患者のゲノム情報や生存期間、治療内容などの大規模リアルワールドデータを解析し、ドライバー遺伝子の1つであるKRAS遺伝子の変異が患者の予後不良および免疫チェックポイント阻害薬を含む現行の薬物治療に対する抵抗性と強く関連することを明らかにしたと発表した。今回の研究は、同大薬学部薬物治療学講座の飯田和樹(博士課程1年)、松井裕也(薬学科6年)、齋藤義正教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「ESMO Open」にオンライン掲載されている。

画像はリリースより
難治性疾患である胆道がんは、近年増加傾向を示しており、現在日本のがん死亡数の第6位を占めている。早期発見が難しく、外科的切除による治療が困難な症例に対しては、抗腫瘍薬による薬物治療が行われているが、5年生存率は20%程度とその成績は十分ではない。胆道がん患者に対する薬物治療の効果が限定的である原因として、個々の患者で治療の効果が異なり、薬効を事前に予測することが困難であることが挙げられる。また、胆道がんにおいて重要なドライバー遺伝子の1つであるKRAS遺伝子の変異が、患者の生命予後や薬物治療の効果にどのような影響を与えているかについては明らかになっていなかった。
胆道がん患者7,773例のデータ解析、KRAS変異陽性は野生型より有意に予後不良
研究グループは、国立がん研究センターがんゲノム情報管理センター(Center for Cancer Genomics and Advanced Therapeutics: C-CAT)に登録された7,773例の胆道がん患者のゲノム情報や生存期間、治療内容などのデータを解析した。
KRAS遺伝子変異の頻度については、胆道がん患者全体では、23.4%の患者においてKRAS遺伝子変異が認められた。KRAS遺伝子変異のタイプ別の内訳では、G12D変異が最も多く(9.0%)、続いてG12V(5.4%)、Q61H(1.9%)、G13D(1.6%)、G12C(1.1%)、その他(4.4%)という結果だった。
外科切除が行われなかった切除不能胆道がんおよび外科切除が行われた切除可能胆道がんに分け、KRAS遺伝子変異の有無と生存期間との関連を解析したところ、切除不能胆道がんおよび切除可能胆道がんのいずれにおいてもKRAS遺伝子変異陽性の胆道がん患者の予後がKRAS遺伝子変異のない野生型の患者よりも有意に悪化していることが明らかになった。
がん種によりKRAS遺伝子変異の予後への影響は異なる
胆道がん全体を肝内胆管がん、肝外胆管がん、胆嚢がんに分けて解析を行ったところ、肝内胆管がんおよび肝外胆管がんにおいては、同様に切除不能胆道がんおよび切除可能胆道がんのいずれにおいてもKRAS遺伝子変異が患者の予後不良と有意に関連していた。一方で、切除可能胆嚢がんにおいては、KRAS遺伝子変異と患者予後について有意な関連は認められなかった。
GCD/GC/GCS療法のいずれもKRAS変異患者は予後不良、G12D変異で顕著
次に、胆道がんに対する薬物治療の効果とKRAS遺伝子変異の関連について解析を行った。現在、胆道がんに対しては、抗腫瘍薬であるゲムシタビンおよびシスプラチンに免疫チェックポイント阻害薬であるデュルバルマブを組み合わせたGCD療法が効果的であることが報告されている。そこで、1次治療としてGCD療法を受けた切除不能胆道がん患者の予後とKRAS遺伝子変異の関連について解析を行った。
解析の結果、1次治療としてGCD療法を受けた切除不能胆道がん患者の予後とKRAS遺伝子変異の有無に有意な関連が認められ、KRAS遺伝子変異陽性の胆道がん患者では、GCD療法を受けても野生型の患者に比べて予後が不良であることが明らかになった。
1次治療として、その他の抗腫瘍薬の組み合わせであるGC療法(ゲムシタビン、シスプラチン)やGCS療法(ゲムシタビン、シスプラチン、S-1)を受けた切除不能胆道がん患者においても同様にKRAS遺伝子変異が予後不良と有意に関連していた。
また、多変量解析によってKRAS遺伝子変異のタイプ別に解析を行ったところ、特にKRAS G12D変異が治療抵抗性と関連していることが明らかになった。
KRAS阻害剤による個別化治療の可能性を示唆
今回の研究により、KRAS遺伝子変異が胆道がん患者の予後不良および現行の薬物治療に対する抵抗性と強く関連することが明らかになり、胆道がんの個別化治療戦略に新たな視点をもたらすことが期待される。今回の研究の結果を受け、KRAS遺伝子変異を有する胆道がん患者に対しては、近年開発が進んでいるKRAS阻害剤を用いた個別化治療が効果的であると考えられる。現在、日本においては、胆道がんにおいて頻度の低いKRAS G12C変異を標的としたソトラシブが非小細胞肺がんにおいて承認されているのみだが、さまざまなKRAS阻害剤の開発や臨床試験が進んでいる。「今後、基礎研究および臨床研究をさらに進めることで、胆道がんに対する革新的な個別化治療が開発されることが期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)