ワクチン接種と認知症との関連、ワクチンの種類や他の要因との関係は未検討
新潟大学は9月4日、約1万人の高齢者を3年半追跡し、肺炎球菌ワクチンを接種していた人では接種しなかった人と比べ認知症が23%少なかったことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科国際保健学分野の齋藤孔良助教、藤井雅寛名誉教授、慶應義塾大学の佐藤豪竜専任講師、千葉大学の近藤克則特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Brain, Behavior, and Immunity」に掲載されている。
認知症の高齢者は世界中で増え続けており、日本では、要介護になる最大の原因が認知症である。認知症予防には、禁煙や運動、社会的つながりの維持が効果的と考えられている。しかしながら、それらの予防法は、人々の努力や健康への意識の高さに大きく依存している。
一方で、インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹などのワクチン接種を受けた高齢者では、ワクチン接種を受けていない高齢者と比べて認知症が少ないという報告が最近相次いで報告されている。認知症の減少と関係するという結果が最も多く報告されているのはインフルエンザワクチンである。これらの研究は米国、英国および台湾の高齢者を対象にしている。しかしながら、これらの国々では、多くの高齢者が2つのワクチンを接種している。そのため、2つのワクチンのどちらが認知症の減少と関係しているのかが不明だった。さらに、過去の研究のほぼ全てが医療受診データを用いていたため、教育年数やフレイルなど、認知症と深い関係にあるが医療受診データに記録されていない要素が研究結果に影響している可能性を否定できていなかった。そこで、研究グループは、心臓病などの認知症のリスクを上げる病気だけでなく、社会経済的状況やフレイルが認知症に影響している可能性を取り除いた上で、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンのどちらが認知症減少と関係するのかを調べた。
ワクチン接種歴・認知症発症の関係、認知症に影響する要素除いて高齢者1万人を解析
2013年に、65歳以上で要介護認定を受けていない約1万人の高齢者を対象に、認知症の発症に影響する可能性がある年齢、性別、教育歴、婚姻状況、家族構成、喫煙、飲酒、高、中、低強度の運動の頻度、BMI(30以上か否か)、心臓病、高血圧、糖尿病、耳の病気、呼吸器の病気、老年うつ、フレイル、肺炎およびインフルエンザの罹患歴、ワクチン接種歴、社会的つながり(社会参加、社会的結束、相談できる人がいるかなど)について調査した。2016年に、肺炎球菌ワクチンおよびインフルエンザワクチン接種に関して調査し、2016年の調査後の3年半または6年5か月にわたり、認知症による要介護認定(日常生活を送るためにサポートが必要)を受けたか否かを追跡調査した。肺炎球菌ワクチンまたはインフルエンザワクチン接種後に認知症が減少したのかについては、ワクチン接種以外の認知症発症に関係する要因の影響を統計学的方法で取り除いた上で、ワクチンを接種したグループと接種していないグループの間で認知症発症に差があるかを計算した。
肺炎球菌ワクチン接種で認知症が23%減少、インフルエンザワクチン接種は有意差なし
3年半の追跡期間では、肺炎球菌ワクチンを接種した高齢者は、接種しなかった高齢者と比べて認知症が23%減少していた。インフルエンザワクチンを接種した人を除いても、肺炎球菌ワクチンを接種した高齢者では、接種しなかった高齢者と比べて認知症が55%減少していた。その一方で、インフルエンザワクチン接種では、肺炎球菌ワクチンを接種した人を除いても、接種した人と接種しなかった人の間で認知症発症に統計学的に意味のある差はなかった。以上の結果は、6年5か月の追跡期間においてもほぼ同じだった。
「今後は、ワクチン接種が認知症予防に効果があるのかについて、無作為抽出試験などで検証することや、ワクチン接種がどのようにして免疫システムや脳神経に働きかけて認知症を予防するのかについて明らかにする必要がある」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)