ソトラシブ耐性は肺がんの重要な課題、新治療法を研究

金沢大学は5月23日、KRAS遺伝子変異を持つ肺がん(KRAS肺がん)に対するWEE1タンパク質を標的とした新しい治療法の開発に成功したことを発表した。この研究は、同大がん進展制御研究所/ナノ生命科学研究所の福田康二助教、同大附属病院腫瘍内科/ナノ生命科学研究所の竹内伸司講師、同大附属病院呼吸器内科/ナノ生命科学研究所/がん進展制御研究所の矢野聖二教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Cell Reports Medicine」オンライン版に掲載されている。

画像はリリースより

肺がんは、日本で最も死亡率が高いがんであり、KRAS遺伝子変異は日本人肺がん患者の約10%に検出され、そのうち約40%がKRAS-G12Cという変異型を有している。KRAS遺伝子に変異を生じると細胞の制御不能な増殖を引き起こし、結果としてがんが発生する。これまでKRAS遺伝子変異を標的とした効果的な治療法は存在しないが、近年、)が開発され、日本でも実臨床で使用されている。しかし、耐性が重大な課題であり、より効果的な治療法の開発が急務となっている。そこで今回研究グループは、KRAS肺がんの細胞死を誘導できる新たな治療標的を探索した。

KRAS肺がんの遺伝子破壊実験で、がん生存に重要なDNA修復関連分子WEE1を特定

はじめに、KRAS肺がんにおいて治療標的の網羅的なスクリーニングを実施した。746種の遺伝子を実験的に破壊し、432種の薬剤を添加した結果、WEE1という分子がKRAS肺がん細胞の生存に極めて重要であることが明らかになった。また、がん抑制遺伝子であるTP53遺伝子の変異が共存していると、WEE1阻害によりKRAS肺がんの細胞死が顕著に誘導された。

WEE1はDNA修復経路に関与しており、がん細胞の異常な増殖によって発生したDNAの損傷を修復する時間を与える。さらに、TP53遺伝子も変異しているとKRAS肺がん細胞の生存はWEE1に依存的になっていることも判明した。これらの結果から、WEE1がCHK2という分子の発現を維持することによって、KRAS肺がん細胞が自身のDNAを修復して生存する過程に重要な役割を果たしていることが初めて明らかになった。これにより、WEE1を阻害すると、KRAS肺がん細胞はDNAの損傷を回復できず細胞死に至ると考えられた。

WEE1阻害薬+ソトラシブ、マウスで顕著な腫瘍縮小効果

さらに、WEE1阻害薬をKRAS-G12C阻害薬と併用することにより、KRAS-G12C肺がん細胞の増殖が抑制され、相乗的に細胞死の誘導が促進されることも明らかになった。マウスを用いた実験では、WEE1阻害薬とKRAS-G12C阻害薬であるソトラシブを組み合わせた治療により、KRAS-G12C肺がん細胞を移植した皮下腫瘍に対して顕著な縮小効果を示し、治療中止後も腫瘍が再増大せず根治が示唆される個体も認めた。

ソトラシブ耐性患者の組織を移植したマウスに対し2剤併用で腫瘍がほぼ消失

ソトラシブが無効であったKRAS-G12C変異肺がん患者のがん組織をマウスに移植したモデル(PDXモデル)での実験では、この2つの薬剤の併用により腫瘍がほぼ消失するという驚くべき結果が得られ、ソトラシブの効果が得られない患者に対しても有望な治療であることが示唆された。

「KRAS阻害薬単独の有効性が限定的であるKRAS肺がんに、新たな治療選択肢を提供し、生存率の向上に貢献することが期待される。研究で得られた成果に基づいて、KRAS-G12C阻害薬とWEE1阻害薬併用治療の有効性と安全性を評価する臨床試験につなげていきたい」と、研究グループは述べている。(

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