正確な診断が困難な難病、病態機序の解明が必要
東京大学医学部附属病院は7月19日、原因不明の難病である間質性膀胱炎(ハンナ型)のゲノムワイド関連解析を行い、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)領域内に存在する、複数のヒト白血球抗原(HLA)遺伝子領域(HLA-DQB1、HLA-DPB1)の遺伝子多型が、その発症に関与していることを同定したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院泌尿器科・男性科の秋山佳之講師、久米春喜教授、大学院医学系研究科遺伝情報学の曽根原究人助教、岡田随象教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports Medicine」にオンライン掲載されている。
間質性膀胱炎(ハンナ型)は、膀胱の粘膜に慢性炎症とびらんが生じ、強い膀胱・尿道痛と頻尿や尿意切迫といった排尿症状により、患者の生活の質を著しく低下させる原因不明の疾患で、特に症状の強い重症型は、国の指定難病となっている。中年以降の女性に発症しやすく、膠原病などの自己免疫疾患を高率に合併することが知られているが、その病態機序はほとんど解明されておらず、標準的な診断基準や根治治療も確立されていない。国内患者数は約2,000人程度と報告されているが、正確な診断の難しさから、未診断・未治療で困窮している患者が潜在的に多数存在している可能性も指摘されている。間質性膀胱炎(ハンナ型)の病態機序を解明し、より正確な診断方法や有効な治療の開発につなげることは、泌尿器科学における極めて重要な課題の1つだった。
日本人患者144人を含むGWAS、MHC領域内に発症に関わる遺伝子多型を同定
今回、研究グループは、東京大学医学部附属病院に通院する日本人の間質性膀胱炎(ハンナ型)患者144人から得られたゲノムデータと、バイオバンク・ジャパンが保有する4万1,516人の対照群から得られたゲノムデータを用いて、ゲノムワイド関連解析を行い、間質性膀胱炎(ハンナ型)の発症に関わる遺伝子多型(rs1794275)をMHC領域内に同定した。
HLA-DQB1遺伝子の変化、抗原提示プロセス変化とその後の免疫反応の異常を示唆
さらに、MHC遺伝子領域の詳細な疾患感受性遺伝子領域の解析(ファインマッピング)を実施し、同定されたrs1794275遺伝子多型と強い連鎖不平衡関係にある、HLA-DQB1遺伝子の71、74、75番目のアミノ酸配列と、HLA-DPB1遺伝子の178番目のアミノ酸配列の各々の変化が、間質性膀胱炎(ハンナ型)の発症に関わっていることを突き止めた。研究グループはその後、別セットの間質性膀胱炎(ハンナ型)患者26人と1,026人の対照群のゲノムデータを新たに用いて、これらの結果が再現されることも確認した。
興味深いことに、HLA-DQB1遺伝子の71、74、75番目のアミノ酸は、抗原提示細胞がリンパ球に抗原を提示する際に機能するMHCクラスII分子において、抗原ペプチドが結合する部位に位置しており、これらのアミノ酸配列の変化が、抗原提示プロセスの変化と、その後の免疫反応の異常につながっている可能性が考えられる。以前より間質性膀胱炎(ハンナ型)の発症機序の一つとして、免疫の過剰反応が指摘されており、今回の研究の結果は、免疫の異常が間質性膀胱炎(ハンナ型)の発症に関わっていることを強く示唆するものと考えられる。
研究成果により、新規診断・治療法の開発が期待される
上述のように、間質性膀胱炎(ハンナ型)はその重篤性に加え、標準的な診断基準や根治治療法を欠き、患者のみならず医療従事者をも困窮させる非常に難しい疾患である。泌尿器科領域では唯一の指定難病となっており、その実態解明に向けて、厚生労働省間質性膀胱炎研究班を中心としたオールジャパン体制で研究が進められているが、病態解明や治療法の開発につながるような、ブレイクスルーを得ることは容易ではなかった。今回の研究によって、間質性膀胱炎(ハンナ型)に関わる複数のHLA遺伝子領域が明らかになったことにより、その病態の理解が大きく進むことが期待される。「将来的には、新規診断方法や疾患バイオマーカー、新規治療の開発につながることも期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)