家族介護者のかかりつけ医機能と介護に伴うストレスとの関連性を検証
筑波大学は6月19日、かかりつけ医を持つ家族介護者は、かかりつけ医による高いプライマリ・ケア機能を経験しているほど、介護に伴うストレスが低いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学医療系の舛本祥一講師、慶應義塾大学医学部医学教育統轄センターの春田淳志教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of General and Family Medicine」にオンライン掲載されている。
世界的な高齢社会の進行によって要介護者が増えており、生活を支える家族介護者の役割はますます大きくなっている。一方で、家族介護者の心理的・身体的なストレスも問題になっており、心理的ストレスを抱える家族介護者は、介護を行っていない人あるいはストレスのない家族介護者よりも、数年後の死亡率が高かったとする報告もある。そのため、ヘルスケア従事者、とりわけ身近な医師や看護師、薬剤師、ケアマネージャーなどが提供するプライマリ・ケアにおいて、家族介護者のストレスに注意を向けることは重要だ。
これまでの研究では主に、被介護者のケアを担うプライマリ・ケア従事者による支援と、家族介護者のストレス低減との関連が注目されてきた。一方、家族介護者自身の「かかりつけ医」に着目した場合、家族介護者の大半は、かかりつけ医から介護にまつわる心理社会的サポートを提供されることを好んでいたという報告はあるものの、「かかりつけ医機能」がストレス低減に寄与し得るか否かは検証されていない。
質の高いプライマリ・ケアを住民に提供する上で、かかりつけ医機能の強化は世界的な関心事であり、日本でも医療制度議論における重要な論点となっている。そこで研究グループは今回、家族介護者のかかりつけ医機能と介護に伴うストレスとの関連性を検証した。
プライマリ・ケア機能の中でも継続性・包括性が高いことが重要
研究では、茨城県内の3つの地域で要介護認定を受けている人を介護する家族介護者を対象に、2020年11~12月にかけてアンケート調査を実施し、かかりつけ医を有していた406人の家族介護者のデータを用いて解析を行った。
かかりつけ医機能は、Japanese version of the Primary Care Assessment Tool(JPCAT)短縮版を用いて評価。JPCATは、国際的に広く使用されるプライマリ・ケア機能評価ツールの日本語版で評価項目には、近接性(ファーストコンタクト)、継続性(全人的な人間関係にもとづく継続診療)、協調性、包括性、地域志向性といった要素が含まれる。また、介護に伴うストレスは、介護ストレスの評価ツールとして世界的に広く用いられる尺度の日本語版である短縮版Zarit介護負担尺度日本語版を用いて評価した。
家族介護者の属性や介護に要する時間などの影響を統計学的に調整した結果、高いかかりつけ医機能を経験している家族介護者ほど、介護に伴うストレスは低いことが明らかになった(JPCAT短縮版の総合得点1標準偏差上昇あたり、ストレス低群に対し高群の存在する割合 prevalence ratio 0.89、95%信頼区間: 0.80-0.98)。
また、JPCAT短縮版の下位尺度得点を用いた分析では、プライマリ・ケア機能のうち、継続性(全人的な人間関係に基づく診療を受けている)と、包括性(必要なときに幅広いケアや助言を受けられる)が高いほど、家族介護者の介護に伴うストレスが低いことが示された。
家族介護者のストレス低減にも、高いかかりつけ医機能が貢献の可能性
かかりつけ医機能の強化が地域住民に恩恵をもたらすことを示した研究報告は増えつつあるが、さらに同研究結果は、家族介護者が抱えるストレスの低減という点においても、高いかかりつけ医機能が貢献し得る可能性を示唆している。このことは、かかりつけ医機能の強化や、家族介護者支援の在り方を検討する上で、一つの資料になると考えられる。
「本研究では、家族介護者のかかりつけ医機能とストレスとの関連を量的に評価したが、今後は質的な評価でも結果が一致するか否かを確認していく予定だ」と、研究グループは述べている。
(QLifePro編集部)