介護保険制度、維持継続の鍵は健康寿命の延伸
名古屋大学は5月29日、愛知県北名古屋市住民対象とした要介護認定情報と健康診断情報を基に要介護認定のリスクマーカーの探索を行う後ろ向きコホート研究を実施し、その結果を発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科実社会情報健康医療学の中杤昌弘准教授、同大医学部附属病院の水野正明教授、杉下明隆助教らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。
世界的な傾向として、高齢化率は着実に上昇しており、今後数十年間はこの傾向が続くと考えられている。特に日本では2020年には高齢者が3619万人となり、総人口の28.8%近くを占め、超高齢社会となっている。このような社会の進化に対応するため、日本政府は2000年に旧来の福祉制度に代わって介護保険制度を導入した。この新制度は、高齢者の自立を優先し、受給者のサービス選択の幅を広げる長期社会保険の一種である。これにより、在宅介護を必要とする高齢者が、生活の質を維持することが可能になった。介護保険制度の受給者となるには、要介護認定を申請し、必要なサービスのレベルの評価を受ける必要がある。審査は、全国統一の要介護認定基準に従って行われ、要介護認定を受けた際には、申請者は、要支援(要支援1・2)、要介護(要介護1~5)に分類される。
2019年に要介護認定を受けた人は全年齢で480万人(65歳以上が95%)、2000年の2.1倍に増加。介護保険料の50%は公費で賄われ、残りは被保険者が支払う保険料で賄われているが、65歳以上の保険料は2000年から2021年にかけて倍増した。高齢者の人口はさらに増加すると見込まれており、今後は新しい受益者に対して医療・財政両面からより優れた政策が必要になると考えられる。一つの解決策は、前もって要介護認定を受ける可能性(リスク)の高い人を特定し、予防的な健康介入によって健康寿命を延ばすことだ。このためには、高リスク者を特定できる感度の高いリスクマーカーが必要だ。
愛知県北名古屋市の65歳以上の要介護認定情報と健康診断情報を解析
そこで研究グループは、愛知県北名古屋市から提供を受けた要介護認定情報と健康診断(特定健診と後期高齢者健診)の情報をもとに、65歳以上の3,718人を対象とした後ろ向きコホート研究(追跡期間8.5年間)を行い、要介護認定のリスクマーカーを探索した。具体的には、2011年4月~2012年3月に特定健診または後期高齢者健診を受診した人の中で、2012年4月時点で65歳以上、2012年3月までに要支援認定・要介護認定を受けず、転居・転出・死亡もしていない3,718人(男性:1,742人、女性:1,976人)に対して、2020年9月まで要介護認定情報を用いて追跡を行った。
追跡期間中に701人(男性:335人,26.2人/1,000人年、女性:366人,24.5人/1,000人年)が要介護認定(要介護1~5のいずれかの認定)を受けた。要介護認定リスクと健診データの関係の評価を行うにあたり、追跡期間中に取得した健診データをすべて分析に利用すべく時間依存性共変量を考慮したCox回帰モデルを採用した。従来は健診データと要介護認定のリスクを評価する際、比例関係(線形モデル)を前提にした評価が行われる。研究では、健診データと要介護認定リスクの関係を比例関係ではなくU字型で評価することができるように制限付き三次スプラインモデルを採用し、線形モデルとスプラインモデルで統計的にどちらが適切かを評価した。
BMI・HDL・ALTなど6項目、要介護認定リスクは比例関係でなくU字型の関係
その結果、肥満度(BMI)、収縮期血圧、高密度リポタンパク質(HDL)コレステロール、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP)が、三次スプラインモデルで有意な結果を示した。これらの6項目は値が高くても低くても要介護認定のリスクが上昇することがわかった。
「従来の古典的な解析アプローチでは、検査値と要介護認定リスクが比例関係にある評価を行うことが多いが、今回の研究結果から、要介護認定リスクは比例関係ではなくU字型の関係を考慮することが必要だとわかった。今後U字型の関係を考慮した要介護認定リスク予測方法の開発が期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)