食道がんへのICI単剤奏効率10~20%、治療効果予測が課題

大阪大学は5月15日、食道がんの辺縁部に後天的に形成される三次リンパ様構造(以下、TLS)の異所性リンパ器官を評価することで、手術後の生命予後を予測し得ることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の大学院生の林芳矩招へい教員、牧野知紀助教、土岐祐一郎教授(消化器外科)らの研究グループによるもの。研究成果は、「British Journal of Cancer」にオンライン掲載されている。

画像: 画像はリリースより

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食道がんは難治性がんの1つとされており、主軸の治療である手術の後にも高い割合(進行がんで約半数)で再発を来す予後不良の疾患だ。近年では、免疫治療の発展によって食道がんにも免疫チェックポイント阻害剤(ICI:Immune checkpoint Inhibitor)治療が保険収載されてきた。しかし、ICI単剤での奏効率は10~20%と低いことから、治療効果予測が治療戦略を立てる上で重要な課題となっている。

食道がんでのTLS発現と意義・機序を明らかにし、臨床応用の可能性を検証

TLSは、慢性炎症下に後天的に発生する免疫細胞の集合体であり、リンパ球を教育・活性化する臓器であるリンパ節と同様に、がん局所において抗腫瘍免疫応答を高める場と考えられている。一方で、一部の癌腫ではTLSは腫瘍促進的に機能するとの報告もあり、一義的でなく未知な部分も多いのが現状だ。

今回の研究では、食道がんにおけるTLSの発現とその意義・機序を明らかにするとともに、臨床応用の可能性を検証した。研究では、同大医学部附属病院消化器外科および大阪国際がんセンター消化器外科の2施設において、術前無治療で根治切除を受けた食道がん患者316症例の切除標本のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)スライドを用いて、TLSの「量(密度)」と「質(成熟度)」をそれぞれ評価した。

TLS高発現群は低発現群より予後良好、成熟したTLSでのみ傾向を認める

TLSは、正常部~前がん病変にあたる異形成部位では密度(発現)が極めて低いのに対して、がん部(特に、早期がん)の辺縁に著しい発現が見られ、腫瘍Stageが進行するとともにその発現が低下することがわった。TLS密度が高い(TLS高発現)群は腫瘍Stageが浅く、手術時の血液検査による栄養免疫学的指標が良好である傾向が見られた。また、TLS高発現群は低発現群と比べて予後良好であり、特に成熟したTLSでのみ、この傾向を認めた。さらに、この傾向は腫瘍Stage別にみても同様であることが示された。

成熟TLSでは、特にCD138陽性形質細胞が著明に集積

また、腫瘍辺縁に存在するTLSの構成細胞分析を実施。その結果、成熟TLSでは免疫細胞数が多く多様性に富み、特にCD138陽性形質細胞が著明に集積していることが明らかになった。

TLS高発現は良好なICI治療効果と相関

さらに、術後再発に対してICI(抗PD-1抗体ニボルマブ、Nivolumab)による治療を施行した症例において、初回手術時検体の腫瘍辺縁TLSを評価。TLS高発現は良好なICIの治療効果と相関することを明らかにし、治療前の組織検査によってのちのICI治療の効果を予測できることが示唆された。

ICI投与前にTLS誘導など、TLS標的の治療開発にも期待

今回の研究成果により、腫瘍辺縁に存在するTLSが食道がんにおける予後やがん免疫治療の重要なバイオマーカーとなることが示された。今後、ICI投与前にTLSを誘導するなど、TLSを標的とした治療開発にも貢献できる可能性が期待される、と研究グループは述べている。(

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