染色体転座診断が重要な多発性骨髄腫、FISH法による複数の転座の検出は煩雑で大きな負担

京都府立医科大学は3月10日、イメージングフローサイトメトリー法とマルチプレックスfluorescence in situ hybridization()法を応用し、多発性骨髄腫における複数の染色体転座を同時検出できる新規診断法を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科血液内科学の塚本拓助教、黒田純也教授、東京医科歯科大学の稲澤譲治リサーチコアセンター長・特任教授(兼 京都府立医科大学大学院医学研究科血液内科学客員教授)、、株式会社ビー・エム・エルらの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Human Genetics」に掲載されている。

画像: 画像はリリースより

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多発性骨髄腫は多数の遺伝子異常、染色体異常の蓄積により発症、進展する造血器悪性腫瘍である。疾患発症の初期イベントとして免疫グロブリン重鎖(immunoglobulin heavy chain gene:IGH)遺伝子関連染色体転座、または高二倍体が関与していると考えられている。IGH関連転座としては、t(11;14) (q13;q32) (CCND1::IGH)が最多の約15~20%の症例で観察される他、t(4;14) (p16;q32) (FGFR3::IGH)、t(14;16) (q32;q23) (IGH::MAF)の異常があるが、これらの染色体転座は、予後因子としての意義だけでなく、適した治療法を選択するうえでも重要な指標となる。

従来、多発性骨髄腫の染色体転座診断にはFISH法が日常診断で用いられてきた。しかし一般的なFISH法は一回の検査で単一の染色体異常しか検出することができず、個々の転座を評価するためには数百個の細胞を鏡検者が目視で診断する必要があった。こうした熟練と技能を要する煩雑な検査を繰り返すことは日常診療で大きな負担となっており、複数の染色体異常を同時に、かつ迅速に検出可能な高精度の診断技術の開発は、長きにわたり残されてきた課題だった。

骨髄腫細胞と4つの遺伝子座を同時検出のISM-FISH法を開発、高精度で迅速な診断可能に

こうした課題を克服するため、研究グループは大量の細胞の状態を蛍光染色パターンと細胞の形で迅速に識別可能なイメージングフローサイトメトリー法と、複数の染色体異常を同時に異なる蛍光標識プローブで検討するマルチプレックスFISH法を組み合わせ、多発性骨髄腫の診療において重要な複数のIGH遺伝子関連転座を同時解析できる検査法を新規に開発し、ISM-FISH(Immunophenotyped-Suspension-Multiplex-FISH)法と命名した。

具体的には、多発性骨髄腫由来の細胞株、および同疾患の患者由来の骨髄検体を、CD138とよばれる多発性骨髄腫に特徴的な表面抗原に対する蛍光標識抗体と、4種類の遺伝子座(IGH、FGFR3、CCND1、MAF遺伝子)を標識する蛍光標識DNAプローブにて処理し、シスメックス社製イメージングフローサイトメトリー装置(MI-1000)により解析する。この方法により、1細胞毎に5種類の蛍光シグナルの解析や、さらに10分間で約1万個の細胞を解析することが可能となった。患者由来の検体中には、骨髄腫細胞と非腫瘍細胞が混在しているが、このシステムではCD138抗原陽性である腫瘍細胞のみを解析画面上で特定し、新規に開発した解析アルゴリズムを用いてIGH遺伝子シグナルの座標と、転座相手となるFGFR3、CCND1、MAF遺伝子のシグナルとの距離を算出することで既定値を満たした場合に「転座陽性」と判定した。この結果、多発性骨髄腫由来細胞株を用いて既知の各染色体転座を正確に検出できただけでなく、患者検体でも従来のFISH法と比較して高い精度(陽性適中率96.6%、陰性適中率98.8%)で診断可能だった。また、従来のFISH法での検出感度は約1%と考えられているが、ISM-FISHの検出感度は従来のFISH法の約10倍と考えられた。

患者ごとの分子細胞遺伝学的特徴による、治療法の最適化を目指す

多発性骨髄腫においては、分子標的薬や細胞治療等の新規治療が続々と開発されており、染色体異常等の分子細胞遺伝学的特徴によって、個々の患者に応じて治療法を最適化することが極めて重要である。しかし、これまでは染色体異常の種類の多さ、検査オーダーの煩雑さなどが理由となり、臨床現場では施設毎、患者毎に染色体診断の実施法は必ずしも均てん化できていない。今回の研究で開発した診断法であれば、一度の検査で重要な3種の染色体異常について同時解析することが可能となるため、より多くの患者に、より簡便に且つ迅速に染色体異常データを提供できることが期待される。研究グループはこの診断法が臨床実装可能な診断法として日常的に利用可能となるよう、認可のための取り組み、検査法の標準化を目指した活動を展開していくという。

「悪性リンパ腫等の他の造血器腫瘍においても染色体異常が病型診断や治療方針決定に重要だが、多発性骨髄腫同様、多種類の染色体異常が存在するため、これらを同時に解析できるようになることが望まれる。IGH関連転座以外の染色体異常や、他疾患で認められる染色体異常の診断への応用の可能性を追求している」と、研究グループは述べている。(

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