心臓に良いことは、脳にも良い――。これは、心臓の健康を維持するための7種類の習慣が、認知症の発症リスクも抑制する可能性のあることを示した、新しい研究からのメッセージだ。この研究は、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のPamela Rist氏らによって行われ、第75回米国神経学会(AAN2023、4月22~27日、ボストン)での発表に先立ち、研究要旨が2月27日にオンラインで公開された。

この研究で認知症リスク抑制効果が評価された7項目のリストには、より多く体を動かすこと、より健康的な食事を取ること、適正体重を維持すること、タバコを吸わないこと、血圧とコレステロールおよび血糖値を良好に保つことが含まれている。これらは米国心臓協会(AHA)が、心臓の健康維持のために提唱していた「Life’s Simple 7」と呼ばれるもの。なお、現在はこれらに加えて「睡眠」も留意すべき事柄とされ、「Life’s Essential 8」と呼ばれている。

Rist氏は、「高血圧は無症候の段階の認知症リスク上昇を示す所見と関連性があり、糖尿病と高コレステロール血症も認知症のリスクを高める可能性がある。心臓の健康に良いとされる『Life’s Simple 7』の7項目が、どのようなメカニズムで認知症のリスクをも低下させるのかは完全には解明されていないが、全てが相互に連携して機能しているのではないか」と述べている。

この研究には、米国で行われている女性対象の健康調査(Women’s Health Study)のデータが用いられた。1992~1994年の研究参加登録時と約10年後の2004年に、Life’s Simple 7の順守状況を調査。各項目について理想的な状態であれば1点、理想的でない場合は0点と評価した。解析対象1万3,720人のベースライン時の年齢は54.2±6.6歳で、Life’s Simple 7のスコアは4.3±1.3点、10年後のスコアは4.2±1.3点だった。

2011~2018年まで約20年間の追跡で、1,771人(12.9%)が認知症を発症。年齢や教育歴などの認知症発症リスクに影響を及ぼし得る因子を調整後、Life’s Simple 7のスコアが高いほど認知症を発症した人が少ないことが明らかになった。例えば、ベースライン時のLife’s Simple 7のスコアが1点高いと、認知症発症が6%少ないという有意な関連があった〔オッズ比(OR)0.94(95%信頼区間0.90~0.98)〕。追跡10年目のLife’s Simple 7のスコアについても、ほぼ同様の関連が認められた〔OR0.95(同0.91~1.00)〕。

この結果を基にRist氏は、「遺伝的背景などの変更できない認知症リスク因子もあるが、修正できるリスク因子は修正することが大切だ」とアドバイス。より具体的に、「Life’s Simple 7のリストを見て、まだ実行していない項目を確認してほしい。もし血圧が高いのであれば、それを下げることに力を入れるべき。禁煙は必須だ」と語る。さらにAAN発のリリースの中では、「1日30分の運動や血圧コントロールによって、認知症の発症リスクを抑制できる」とも記している。

一方、この研究の限界点としては、喫煙者が禁煙した場合などの生活習慣の修正によって、認知症のリスクがどのように変化したかを評価できていない点が挙げられる。また、Life’s Simple 7に含まれていない項目が、認知症リスクをさらに押し下げる可能性がある。現在その可能性が考えられているのは、生涯を通して継続的に教育を受けることと、質の高い睡眠、社会活動への参加などだ。「今後の研究では、Life’s Simple 7にほかの要素を追加できるかどうかを検討する必要がある」とRist氏は話している。

この研究は、米国立衛生研究所(NIH)のサポートにより実施された。なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。(HealthDay News 2023年2月28日)

https://consumer.healthday.com/dementia-2659441934.html

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