生体/環境情報を収集・分析できる多機能ファイバを織り込んだ生地はこれまで無かった

東北大学は1月16日、汗の中に含まれる重要な生体健康因子であるナトリウム、尿酸などを高感度かつ選択的に検出・モニタリングできる多機能ファイバ・テキスタイルの開発に世界で初めて成功したと発表した。この研究は、同大学際科学フロンティア研究所の郭媛元助教、佐藤雄一研究員、大学院工学研究科修士課程の呉京宣氏の研究グループによるもの。研究成果は、「Analytical and Bioanalytical Chemistry」に掲載されている。

画像はリリースより

日常生活に必要不可欠な衣服は、身体に密着する物であり、多様な生体因子と緊密に触れ合っている。特に、汗は重要な電解質、、アミノ酸、ストレスホルモンなどを含んでいるため、代謝性疾患や精神的状態などと関連している。数千年にも渡る人類の進歩の中でも、衣服は、美観や保温などの機能しか実現できていなかった。ここ数十年の間に、主にデジタル印刷技術や従来のシリコン製造技術によって開発されるウェアラブルエレクトロニクスとして、布地に電子技術を組み込むことが実現されてきた。しかしそれらは、一般的には、既存の布地や肌に硬い電子パッチを直接貼り付けるもので、体に触れる面積はわずかであり、これらのデバイスがアクセスできるデータの種類は限定されていて、「」というには十分ではない。

厳密な定義では、「ウェアラブル」という言葉は、実際に身につけるもの、つまり衣服だ。衣服は、繊維で編まれたテキスタイルからできていて、人体の広い面積に触れるため、重要な生体情報や周囲環境情報を大量に含んでいる。こうした背景から、着用している衣服の機能性ファイバ・布地自体から生体情報や環境情報を収集・分析できるように開発することが重要な課題になってきた。

多機能ファイバを毛のように細くして大量生産も可能に

今回の研究では、次世代ヘルステックを担う汗の分析が可能となる多機能ファイバ・テキスタイルを開発。独自の技術である熱延伸プロセスを利用することで、金太郎飴の作り方のように、必要な構造や機能を持つ成型物(プリフォーム)を加熱しながら引き伸ばすと、スケールダウンしながら構造と機能を維持したまま、ヒトの毛のような細いファイバを大量生産することが可能となった。

この多機能ファイバについて、従来の繊細かつ柔軟な品質を維持し、電気化学センシングと液体注入の機能を組み合わせることにも成功。汗の中のさまざまな化学物質を電気化学的にセンシングするため、カーボン複合材料を電極として利用した。このカーボン複合材を多機能ファイバの中に集積し、高感度センシングを実現するため、新たな多機能ファイバの構造を設計し、熱延伸により製作した。また、レーザー加工技術も併用し、ファイバの中に集積した電気化学センシング電極や微小流路をファイバの側面から露出することができ、ファイバの先端のみならず側面も機能化することが可能となったという。

新たな技術でバイオセンシング機能を実現、汗の成分をモニタリング可能に

多機能ファイバでは、汗の中の重要な生体健康因子、例えば電解質であるナトリウム、代謝産物である尿酸を高感度かつ選択的に検出する。そのため、ナトリウムイオノフォアなどの新しい感応膜を合成し、ファイバ側面に露出した電極に付与するなどの新しい表面化学修飾方法も開発し、バイオセンシング機能を実現した。

また、この多機能ファイバを衣服の中に織り込むことで、汗をall-in-fiberで測定し、ナトリウムや尿酸など多様な成分を同時にモニタリングすることができるようになった。このように、ヒトの健康状態に関する貴重な知見をシームレスに得られることが期待される。

自分で身体・精神の健康状態を管理、基礎疾病の追跡に期待

同研究では光通信ファイバ用の熱延伸法を改良し、髪の毛ほどの細さを持つポリマー製ファイバに、汗センシング用バイオセンサなどさまざまな機能をシームレスに集積することが可能となった。この多機能ファイバを活用することにより、スマートテキスタイルの新時代が幕を開けると期待される。汗センシングできる多機能ファイバから作られた衣服により、身体に密着することで、汗の中の重要な生体健康信号をさりげなくセンシングすることが可能となる。それらの情報を収集し、解析することにより、自分で身体および精神の健康状態を管理することや基礎疾病を追跡することができるようになるという。さらに、ヒトの健康寿命の延長及び生活の質(QOL)を向上させることが期待される。

繊維(ファイバ)は、歴史的に文明社会の基盤と密接なつながりを持ち続けてきた。多機能ファイバを活用した製品が日常生活の中で普及すれば、これからも乳幼児から高齢者まで一人一人が自立して周りと助け合いながら、充実した人生を送れる活気ある「人生100年時代」の社会を迎えていくことができるだろうと期待している、と研究グループは述べている。(

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