以前よりアルツハイマー病患者の記憶力の維持に対する脳深部刺激療法(DBS)の有効性が検討されているが、この治療アプローチの向上につながり得る新たな研究結果を、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のAndreas Horn氏らが、「Nature Communications」12月14日号に報告した。
DBSは脳の特定の部位に電極を埋め込み、電気刺激を加えることで異常な脳活動を抑制する治療法だ。埋め込まれた電極は、皮下に留置された電線を介してパルス発生器につながれる。パルス発生器はペースメーカーのようなデバイスで、胸部の皮下に埋め込まれ、脳内の電極に自動的に電気パルスを送るようにプログラムされている。DBSは、一般的には安全な治療法と考えられている。しかし、埋め込み手術にはある程度のリスクを伴う。また、時間の経過とともにDBSシステムを構成する機器が正しい位置からずれたり、壊れたりする可能性もある。
DBSは、すでにてんかんやパーキンソン病、強迫性障害などいくつかの疾患に対する確立された治療法となっているが、アルツハイマー病に対する有効性も検討され始めている。これまでに報告された研究では、脳弓と呼ばれる脳領域が刺激を与えるターゲットだった。神経線維の束で構成される脳弓は、脳の記憶回路で重要な領域だ。軽度のアルツハイマー病患者では脳弓に損傷のあることが報告されており、異常を来した回路の機能をDBSによって改善できる可能性に期待が寄せられている。しかし、実際にDBSによって記憶力の低下を遅らせることができたとする報告がある一方で、そのような効果は認められなかったとする報告もあり、研究間で意見は一致していない。
このような状況の中でHorn氏らは、電極の留置場所の違いが相反する研究結果を生んだ一因ではないかと考えた。そこで、軽度アルツハイマー病に対してDBSを施行する臨床試験に参加した46人の患者のデータを解析して、DBSによる刺激部位と治療への反応に関連があるかどうかを調べた。
Horn氏は当初、電気刺激を加える「スイートスポット」を見つけられるかどうかについては懐疑的だったが、結果的にそれを発見した。例えば、脳弓と情動や行動の反応に関わる分界条床核の間にDBSによる刺激を与えた場合に高い治療効果を得られることが分かったのだ。そこで、初期解析には含まれなかった18人の患者を対象にこの解析結果を検証したところ、DBSの電極を留置した場所によって治療効果を予測できることが確認された。
Horn氏は、DBSでの刺激対象となる脳内の部位を正確な場所に絞ることが最終的な目標だと説明し、「われわれが提案しているのは新たな治療戦略ではなく、精度を高めた治療戦略である」と述べている。ただし、「今後、DBSの精度がどれだけ向上したとしても、アルツハイマー病を治癒に導くことはできないだろう」と強調し、「われわれが望んでいるのは、患者が良好なQOLを維持できる期間を延ばすことだ」としている。
現時点ではアルツハイマー病の治療法としてのDBSはまだ研究段階にあるため、アルツハイマー病患者がDBSを受けるには臨床試験に参加する必要がある。現在、軽度アルツハイマー病患者を対象にDBSの有効性を1年かけて評価する、より大規模な臨床試験、ADvance IIが進行中だ。同試験への参加施設の一つである米テキサス大学健康科学センターのGabriel de Erausquin氏も、Horn氏らの研究の結果がDBSによる治療でターゲットを絞るのに役立つ可能性があるとの見解を示し、この研究結果がアルツハイマー病患者に対するDBSの有効性を高めることにつながれば、「大きな意味がある」と話している。なお、de Erausquin氏は今回のHorn氏らの研究には関与していない。
De Erausquin氏はまた、Horn氏と同様、DBSがアルツハイマー病の治癒をもたらす治療法ではない点を強調している。De Erausquin氏は、アルツハイマー病患者が通常たどる経過として機能が低下し続けることを指摘し、機能低下の進行を抑えられるようになることに期待を示している。(HealthDay News 2022年12月22日)
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