ゲノム編集技術CRISPR/Cas9を用いて、標的とするがん細胞を攻撃するようにDNA配列を改変した免疫細胞(T細胞)を作成することに成功したとする小規模臨床試験の結果が報告された。がん治療で熱心に研究が進められている2つの領域である、がんの遺伝子情報に基づく個別化医療と、T細胞の遺伝子改変によりがん細胞に対する攻撃力を高める治療法とを組み合わせた初めての試みだという。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のがん専門医であるAntoni Ribas氏らによるこの研究結果は、「Nature」に11月10日掲載されるとともに、米がん免疫療法学会(SITC 2022、11月8〜12日、米ボストン)で発表された。

この研究では、まず、乳がんや大腸がんなどさまざまな固形がん患者16人の血液サンプルと腫瘍の生検組織を用いてDNA解析を行い、生検組織にのみ認められる遺伝子変異を検索した。Ribas氏らによると、がんの発生に関わる遺伝子変異はがん種ごとに異なり、共通するものがあってもごく一部であるため、この作業は患者ごとに行う必要があるという。

次に、アルゴリズムによりそれらの変異の中からT細胞の応答を誘導できる可能性のあるものを予測した。その後、解析結果を確認し、予測の妥当性を検証した上で、がん細胞の遺伝子変異を認識するT細胞受容体をデザインし、CRISPR/Cas9によりこれを患者の血液から取り出したT細胞に導入して発現させた。対象患者の免疫細胞の数を免疫抑制剤により抑えた上で、この遺伝子改変T細胞を患者の体に、1人につき最大3種類まで戻した。最終的に16人の患者に戻された受容体の数は37種類に上った。なお、CRISPR/Cas9はこれまで、免疫システムのがん細胞に対する攻撃の増強を目的に、特定の遺伝子を除去するために使用されている。しかし、がんの遺伝子変異を特異的に認識する受容体を免疫細胞に導入するために用いられたのは、今回の研究が初めてだという。

その結果、患者の体に戻された遺伝子改変T細胞が血液中を循環し、腫瘍の近傍では、遺伝子改変T細胞が遺伝子編集されていない細胞よりも高濃度で存在していることが確認された。さらに、治療から1カ月後には、5人の患者で治療効果が「安定」、つまり、がんのサイズが大きくなっていないことが確認された。一方、安全性に関しては、1人の患者にグレード1(サイトカイン放出症候群)、別の患者にグレード3(脳炎)の有害事象が認められ、これらの症状が遺伝子改変T細胞に起因すると考えられた。ただし、2人はこれらの副作用から迅速に回復した。

Ribas氏は、「これは、個々の患者のがん細胞の遺伝子変異を特異的に認識する免疫受容体をがん治療に用いる、個別化がん免疫療法を確立させる上で大きな飛躍となるものだ」と語る。

またRibas氏は、「CRISPR/Cas9では、臨床グレードの細胞の免疫受容体をワンステップで置き換える新たな技術が開発された。この技術がなければ、個別化がん免疫療法は実現不可能だろう」と話す。免疫細胞には、がん細胞を特異的に認識する受容体が備わっている。これらの受容体は患者ごとに異なるため、個別化がん免疫療法を幅広いがん患者に対して実施するには、効率よく必要な受容体を分離して患者の免疫細胞に導入できる方法を見つけることが鍵となるからだ。

ただし、本研究で認められた治療の効果は低いものだった。Ribas氏はこの点について、「今回の研究は治療の安全性とアプローチを確認するために実施したものであったため、患者の体内に戻すT細胞の量も少なかった」と説明し、「次回はT細胞の量を多くして効果を検討したい」としている。(HealthDay News 2022年11月10日)

https://consumer.healthday.com/cancer-treatment-2658622042.html

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