認知症は言語機能にも影響、会話から判別することは可能か

慶應義塾大学は8月8日、(NLP)を用いた「会話型認知症診断支援AIプログラム」を開発したと発表した。この研究は、同大医学部ヒルズ未来予防医療ウェルネス共同研究講座の岸本泰士郎特任教授らと株式会社FRONTEOとの共同研究によるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。

高齢化が進む日本では認知症の人の数が増加し続けている。厚生労働省によると、2025年には730万人(高齢者の約5人に1人)に達すると推計されており、認知症への対策は日本の重要な社会的課題の一つだ。認知症の診断は、通常、病歴の問診に加え、画像検査、記憶や計算力などを測る複数の認知機能検査によって行われる。しかし、これらの検査は専門性が高く、検査を行う医療従事者が訓練を受ける必要がある、時間がかかる、などといった問題がある。

認知症は記憶力や注意力など、さまざまな機能に影響を与えるが、言語機能にも影響が出ることが知られている。そこで研究グループは自由会話を録音し、自然言語処理(NLP)の技術を使って認知症の可能性を判定する研究を行った。

自由会話から認知症への罹患を精度0.90で判定

研究では、135人の協力者から合計432回分の会話を書き起こし、形態素と品詞への分解、ベクトル変換、機械学習を行った。

その結果、認知症への罹患を精度0.90、感度0.88、特異度0.92で判定することに成功した。この精度は3~5分程度の発話から得られる語彙数で実現が可能だった。

開発したプログラムは、高齢者と医療者の間で行う自由会話文を基に認知症を検知するもので、記憶や計算等の検査を行わなくても、認知症の識別が可能。検査を繰り返し行うことで被験者が検査内容を覚えてしまい検査の精度が低下する「学習効果」を避けることが可能な技術として、スクリーニング検査などへの実用化が期待される。

臨床試験を実施済、薬事承認に向け進行中

研究成果に基づき、FRONTEOは2021年4月~2022年3月、同大医学部精神・神経科学教室の三村將教授を治験調整医師として、「会話型 認知症診断支援AIプログラム」のAI医療機器としての実用化に向けた臨床試験を実施した。現在、同臨床試験の結果を踏まえ、薬事承認へのプロセスを進めている。(

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