認知症予防の潜在的可能性を、日本の公的統計や疫学研究データを用いて定量的に評価
東海大学は1月13日、日本の公的統計や疫学データを用いた解析により、国内の認知症の38.9%が生活習慣や健康状態の改善によって、理論的には予防可能であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部の和佐野浩一郎教授およびデンマーク・コペンハーゲン大学認知症センターのカスパー・ヨーゲンセン上席研究員による国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「The Lancet Regional Health – Western Pacific」に掲載されている。

画像はリリースより
認知症は世界的に急増している深刻な公衆衛生課題だ。認知症に伴う世界の経済的負担は、2019年時点で約1.3兆米ドルと推計されており、2030年には1.7兆米ドル、介護費用を含めると最大2.8兆米ドルにまで増加すると予測されている。日本は世界で最も平均寿命が長く、急速に高齢化が進む「超高齢社会」だ。65歳以上人口の割合は、2010年には21%を超え、2024年には29.3%に達した。さらに2045年には、3人に1人以上が65歳以上になると見込まれている。加齢は認知症の最大の危険因子であることから、日本は世界でも特に認知症の影響を受けやすい国の一つと言える。厚生労働省の推計によると、2022年時点で65歳以上の約12.3%が認知症、約15.5%が軽度認知障害(MCI)とされている。認知症患者数は約443万人、MCIを含めると約1000万人にのぼり、2050年には認知症が約587万人(高齢者の15.1%)、MCIが約631万人(16.2%)に達すると予測されている。
近年、アミロイドβを標的とした抗体医薬など、新たな治療法が登場しているが、その効果や、高額な医療費や適応条件の厳しさなどから、実臨床での普及には課題が残っている。このため「治療」だけでなく、発症そのものを遅らせる、あるいは防ぐ「予防」の重要性が増している。このような流れの中で、「The Lancet」の認知症委員会(The Lancet Commission on dementia)は、生活習慣や環境要因などの介入可能な危険因子への対策により、世界全体で認知症の約45%が予防可能であると報告している。しかし、これらの推計は主に欧米を中心とした国際データに基づくものであり、日本の社会構造や健康特性を十分に反映しているとは言えない。
そこで研究グループは、日本の公的統計や疫学研究データを用いて、日本における認知症予防の潜在的可能性を定量的に評価した。これは、今後増加が確実視される認知症に対し、どの危険因子にどの程度優先的に介入すべきかを示す科学的根拠を提供することを目的としている。
うつ、運動不足、喫煙、社会的孤立など、14の修正可能な「認知症危険因子」を解析
研究では、2024年のランセット認知症委員会の報告において、科学的根拠に基づき特定された、「教育歴の低さ、難聴、高LDLコレステロール血症、うつ、外傷性脳損傷、運動不足、喫煙、糖尿病、高血圧、肥満、過剰な飲酒、社会的孤立、大気汚染への曝露、視力低下」という14の修正可能な認知症危険因子を対象に解析を行った。
認知症の38.9%が予防可能、特に影響が大きい危険因子は難聴、運動不足など
これらの因子について、日本の国民健康・栄養調査、政府統計、疫学研究、環境データなど、信頼性の高い国内データを用いて、それぞれの有病率(該当者の割合)を推定した。さらに、集団寄与危険割合(PAF)および潜在的影響割合(PIF)を算出し、日本における認知症予防の潜在的規模を定量的に評価した。
各危険因子のPAFについて14因子全てを考慮した場合、認知症の38.9%が予防可能であることが示された。また、特に影響が大きい危険因子は、難聴(6.7%)、運動不足(6.0%)、高LDLコレステロール(4.5%)であることが判明した。
危険因子を一律に20%低減した場合、将来的に約40.8万人の認知症を予防可能
各危険因子のPIFについては、危険因子を一律に10%低減した場合、将来的に約20.8万人の認知症を予防できることが判明。危険因子を一律に20%低減した場合、将来的に約40.8万人の認知症を予防できることが明らかになった。
認知症基本法や認知症施策の具体化に向けた科学的根拠としての活用に期待
今回の研究は、日本の実情に即したデータを用いて、どの危険因子に優先的に介入すべきかを定量的に示した点に大きな意義がある。特に、難聴や運動不足など、適切な対策によって改善可能な要因が、認知症予防に大きく寄与することが明らかになった。
「本研究は、駐日デンマーク大使館ならびにヘルスケアデンマークの連携支援のもとで実施された、日本とデンマークの学術連携による認知症研究の成果だ。本成果が、2024年に施行された認知症基本法や、今後の認知症施策の具体化に向けた科学的根拠として活用されることが期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)