心臓血管病リスクとなる成人の「身長低下」、甲状腺ホルモンとの関連は?
長崎大学は12月15日、潜在性甲状腺機能低下症の身長低下への影響を、世界で初めて解明したと発表した。この研究は、同大医歯薬学総合研究科総合診療学分野の清水悠路客員准教授、原爆後障害医療研究所健康社会統計学分野の林田直美教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Environmental Health and Preventive Medicine」に掲載されている。

画像はリリースより
成人における身長低下は心臓血管病リスクであり、血管修復をつかさどる造血幹細胞(CD34陽性細胞)の数が少ないと、心臓血管病リスクも身長低下リスクも上昇する。
甲状腺ホルモンは、CD34陽性細胞を増やす役割を担う。血管損傷があると甲状腺ホルモンの需要が高まり、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の血中濃度が上昇する。その結果、潜在性甲状腺機能低下症が出現すると考えられる。甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンが正常範囲だが、TSHが基準値より高い状態。自覚症状はほとんどないが、放置すると動脈硬化や心筋梗塞などのリスクを高める可能性がある。
遊離T4が正常低値の人でのみ、潜在性甲状腺機能低下症が身長低下リスクになると判明
研究グループは、甲状腺ホルモン(遊離トリヨードサイロニン(T3)と遊離サイロキシン(T4))が正常値の人(40~74歳の1,599人)を対象にした地域住民コホートにおいて、遊離T4が正常低値(中央値未満)の人でのみ、潜在性甲状腺機能低下症は身長低下リスクになることを突き止めた。
具体的には、遊離T4が正常低値(中央値未満)の人では、潜在性甲状腺機能低下症は統計学的に有意な身長低下リスクだった。一方、遊離T4が正常高値(中央値以上)の人では、潜在性甲状腺機能低下症は統計学的に有意ではないが、むしろ身長低下を予防し得る傾向が認められた。先行研究では、甲状腺ホルモンは血管内皮修復に寄与し、血管内皮障害は身長低下リスクであることが報告されている。
甲状腺ホルモンはT3が活動型、T4は非活動型であるため、甲状腺ホルモンの需要が高まると、安定型の遊離T4から活動型のT3への変換(脱ヨード化)が進む。このため、潜在性甲状腺機能低下症があっても十分な遊離T4がある場合、生体は必要量に応じて十分なT3を産生でき、血管内皮修復を十分に行えるが、十分な遊離T4がない場合、潜在性甲状腺機能低下症は、血管修復の不足を示唆する指標になり得ると考えられた。
潜在性甲状腺機能低下症の治療方針にも影響する可能性
今回の研究結果は、身長低下と心臓血管病リスクとの関係を説明し得る生物学的メカニズムの解明に有用であるに留まらず、現行の血液検査の結果(TSH、遊離T3、遊離T4)で単純に甲状腺機能を評価する方法に一石を投じる知見だと言える。
「潜在性甲状腺機能低下症は一般に甲状腺の潜在的な障害が原因と考えられているが、本研究結果は甲状腺ホルモンの必要性が増すことも、潜在性甲状腺機能低下症の原因になり得ることを意味している。また、潜在性甲状腺機能低下症を有する人の多くは、経過観察のみで実際に治療を受けてはいないと考えられている。本研究結果は遊離T4のレベルに加え、血管内皮機能への影響も考慮することで治療対象拡大の必要性も示唆するものであると思われる」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)