免疫において重要な「Tfr」、分化プロセスや機能的特性には不明な点が多かった

大阪大学は10月17日、ヒト血液中を循環する濾胞性制御性T細胞(Tfr)のうち、30~50%がナイーブ様表現型を持つ前駆型Tfr(preTfr)であることを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大感染症総合教育研究拠点のJames Badger Wing教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」にオンライン掲載されている。

画像: 画像はリリースより

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制御性T細胞(Treg)は、転写因子Foxp3を発現し、免疫の恒常性維持において重要な役割を果たすことが知られている。近年の研究で、Tregには性質の異なる多様なグループが存在することが明らかになり、その中でも濾胞性制御性T細胞(Tfr)は、胚中心(Germinal center)での免疫応答を制御する特殊な細胞群として注目されている。Tfrは胚中心において濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh)を抑制することで、B細胞の成熟と抗体産生を調節し、自己抗体の産生を防ぐ役割を担っている。

TfrとTfhの比率の異常は関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患に関与していると考えられており、これらの細胞のバランスの乱れが病気の発症に影響を与える可能性が示唆されている。さらに、Tfrはワクチン応答やCOVID-19などのウイルス感染症においても重要な役割を果たすことが報告されており、重症COVID-19症例では、Tfr機能の変化が免疫応答の調節不全、過剰な抗体産生、自己抗体産生、炎症の増加と関連することが示されている。

しかし、ヒトの血液やリンパ組織にTfrは多く存在するにもかかわらず、その分化段階や前駆細胞の存在については不明な点が多く、特にCD45RA陽性のTfr細胞の機能的特性は十分に解明されていなかった。

ヒト末梢血中Tfrの30~50%が前駆型「preTfr」であることを発見

研究グループは、以前発表されたマスサイトメトリーデータを用いて、重症COVID-19患者、敗血症患者、健康対照者、そしてSARS-CoV-2 mRNAワクチン接種者から採取されたPBMCサンプルを再解析した。その結果、ヒト末梢血中のTfrの30~50%がCD45RA+CD45RO-CXCR5+の表現型を持つナイーブ様前駆型Tfr(preTfr)であることが判明した。

preTfrは増殖能とともに免疫抑制機能を維持、nTregsとは異なり創傷治癒能も増強

次にpreTfrの機能特性を明らかにするため、健康なドナーのPBMCからpreTfrと通常のナイーブTreg(nTregs)を分離し、in vitro培養実験を行った。preTfrは、nTregsと同様に長期間、増殖能を保持しながら免疫抑制機能を維持した。また、RNAシーケンス解析の結果、刺激を受けるとIL-1RA、IL-1R2などの成熟型のTfr関連抑制分子の発現が増加することが明らかになった。さらに、preTfrは創傷治癒能も増強されており、nTregsとは異なる機能を持つことが示された。

重症COVID-19や敗血症の患者ではpreTfrが顕著に減少、nTregsは変化なし

臨床サンプルの解析では、重症COVID-19患者や敗血症患者において、preTfrと成熟型Tfr(cTfr)が著しく減少する一方で、nTregsは安定していた。重要なことに、preTfrの減少は、COVID-19後期における抗インターフェロンγ自己抗体の増加や活性化非定型B細胞の増加と相関しており、COVID-19による死亡率とも関連していた。対照的に、SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種者では、接種後にpreTfrおよびcTfrの割合が増加しており、preTfrが制御された免疫応答に関与していることが示唆された。

さらに、ヒト扁桃組織の解析により、preTfrはリンパ組織にも存在し、組織常在型Tfrへの移行初期段階にあることがわかった。

ワクチンや自己免疫疾患の新たな治療法開発への応用に期待

今回の研究により、重篤な感染症における免疫調節不全と自己抗体産生の新たなメカニズムが明らかになった。preTfrが重症COVID-19や敗血症の早期段階から特異的に減少することは、これらの細胞が疾患の進行や予後に重要な役割を果たしていることを示唆している。

また、preTfrの同定は、自己免疫疾患の治療への応用も期待される。CD45RA陽性Tregは、その安定性と増殖能の高さから養子細胞療法への利用が検討されてきたが、この集団がCXCR5陽性細胞と陰性細胞の2つのグループから構成されていることは、これまで認識されていなかった。preTfrは高い安定性と免疫抑制能を持つ集団であり、特に自己抗体産生を伴う自己免疫疾患(全身性エリテマトーデスなど)の治療標的として有望であると考えられる。

「本研究は、preTfrの測定が重症感染症患者における自己抗体産生のリスク評価や、ワクチン応答のモニタリングにも有用である可能性を示している。preTfr頻度の測定は、重症化リスクの早期予測や治療介入の最適なタイミングを判断するためのバイオマーカーとなることが期待される」と、研究グループは述べている。(

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