肝細胞がんの予防には政策を含めた包括的戦略提言が必要
近畿大学は7月29日、アルコールをはじめとする非ウイルス性の因子を制御することによって、少なくとも60%の患者で肝細胞がんを予防可能であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部内科学教室(消化器内科部門)の工藤正俊主任教授らの研究グループと、中国・復旦大学附属中山医院のJia Fan教授らとの国際共同研究によるもの。研究成果は、「The Lancet」にオンライン掲載されている。
肝がんは世界で6番目に多い悪性腫瘍であり、がん関連死因の第3位となっている。肝がんの約80%を占める肝細胞がんは、早期段階では無症状のことが多い。症状を自覚したときには病状が進行しているため有効な治療が限られてしまい、生存率が極めて低いことが知られている。
肝細胞がんはB型肝炎など肝臓関連の疾患のほか、アルコールやタバコ、肥満などさまざまな因子によっても引き起こされる。このため、生活習慣の改善による予防が可能であるが、特に低所得の国においては肝細胞がんの予防や治療が十分に進んでいないケースが多く、具体的な治療法の開発に加えて、政策などにも言及するような包括的戦略提言が求められている。
肝がん専門家による7年間の議論の成果を提言論文として発表
世界5大医学雑誌の一つである「The Lancet」は、学術機関や世界各国の第一線の専門家と連携し、科学・医学・グローバルヘルスにおける最も喫緊の課題を特定し、その課題に対する戦略的提言を取りまとめる「Lancet Commission(専門家会議)」を組織している。委員会は、提言内容を論文として発表することで各国の医療政策の変革や医療現場の改善を目指しており、提言はしばしば世界保健機関(WHO)の政策にも反映されている。
同大の工藤正俊主任教授は、The Lancetより依頼を受け、中国の復旦大学附属中山医院のJia Fan教授らとともに、「Lancet Commission on Liver Cancer(ランセット肝がん委員会)」を発足させた。同委員会には世界を代表する肝がんの専門家が招集され、2018年から7年かけて継続的な議論を重ねてきた。これまでにLancet Commissionによる論文は計102本発表されているが、日本人が議長および責任著者として委員会を主導し、提言論文を発表するのは今回が初めてとなる。
適切な対策で肝がんの新規発症は予防可能、今後25年間で最大1,730万件と推測
今回発表された論文では、肝細胞がんの原因となるウイルス肝炎や代謝性肝疾患への対策を講じるとともに、アルコール摂取・肥満といった生活習慣も原因となることを啓蒙し、社会全体のヘルスリテラシーを向上させる必要があるとしている。また、肝細胞がんは早期発見によって治療の選択肢が増えることから、定期的な画像・血液検査の重要性も述べられている。
その中で、肝細胞がんは、アルコールをはじめとする非ウイルス性の因子を制御することで、少なくとも60%の患者で予防が可能であることが示されている。また、B型肝炎、非アルコール性脂肪性肝疾患、環境汚染なども原因となり得るため、国や地域・性別・所得格差に応じた政策も必要であると提言している。同委員会は、これらの対策を推進することで、肝がんの新規発症を今後25年間で880万~1,730万件予防し、770万~1,510万人の命を救うことができると推測している。(QLifePro編集部)