好中球は多様性を持つ免疫細胞
北海道大学は5月1日、腎疾患に対する好中球の関与を詳細に解説した総説を発表したことを明らかにした。この研究は、同大大学院保健科学研究院の石津明洋教授、益田紗季子講師、西端友香講師、医学研究院の中沢大悟講師、楠(渡辺)加奈子助教、同大病院の外丸詩野准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Reviews Nephrology」に掲載されている。
画像はリリースより
好中球は末梢血白血球の中で最も多い免疫担当細胞で、従来は均質な細胞集団と見なされていたが、近年、異なる遺伝子発現プロファイルと免疫特性を持つ多様な細胞群であることがわかってきた。感染などの刺激により活性化された好中球は、刺激の種類とそれを受け取るサブセットの違いに応じて、サイトカイン、ケモカイン、タンパク分解酵素、活性酸素、好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps:NETs)など様々な生理活性物質を放出する。
NETsは生体防御と自己損傷の両方に関わる
このうちNETsは、脱凝縮したDNAと抗菌タンパク質で構成されており、生体内に侵入した病原微生物を細胞外で捕捉・殺菌する重要な自然免疫機構の一つ。NETsは生体防御に不可欠である一方、その細胞毒性、血栓形成性、自己抗原性のために自己損傷のリスクも有している。
正比重顆粒球(normal-density granulocyte:NDG)は、比重遠心法により多核白血球に分画される顆粒球。末梢血の主要な好中球サブセットであり、各種刺激に応じて、さまざまな形態のNETsを放出する。その中には、NETsの主成分であるDNAが核に由来するものやミトコンドリアに由来するもの、NETs放出に伴い細胞死に至るものや至らないものがあり、これらの現象を引き起こす経路も多様であることが知られている。また、低比重顆粒球(low-density granulocyte:LDG)は、NDGよりも未熟な好中球サブセットで、NDGに比べて自然にNETsを放出しやすい性質があることもわかってきた。
好中球についての最新知見を整理
そこで、研究グループは「好中球の多様性」「NETsとは何か」「好中球と糸球体構成細胞の相互作用」「腎疾患の病態形成における好中球とNETsの役割」について、分担して文献調査を実施し、これまでの知見を整理した。
腎疾患の病態形成における好中球とNETsの役割を詳細に解説
今回の総説では、糸球体毛細血管壁の病理学的変化が腎内への好中球浸潤を促進し、浸潤した好中球がNETsを放出することで腎臓に存在する細胞(特にメサンギウム細胞や上皮細胞)と相互作用し、組織損傷や炎症を拡大することを明確に示した。
また、好中球とNETsは、急性腎障害、血管炎、全身性エリテマトーデス、血栓性微小血管障害、慢性腎臓病といった腎臓が障害されるさまざまな病態の形成に関与していることを明示した。
好中球の活性化とNETsを標的とする腎疾患の新しい治療戦略に期待
腎疾患の病態形成における好中球とNETsの役割を理解することは、好中球の活性化とNETsを標的とした腎疾患に対する新しい治療戦略の開発につながる。
「好中球の活性化を阻害する薬剤として、好中球細胞表面に発現する活性化受容体の拮抗薬や好中球に活性化シグナルを伝達する各種酵素の阻害剤、NETsの分解を促進するDNA分解酵素などを用いた腎疾患に対する前臨床試験または臨床試験が国内外で展開されており、有効性が確認されることが期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)