2019年に、がんゲノムプロファイリング(Comprehensive genomic profiling:CGP)検査が保険適用になってから5年以上が経過しました。がん遺伝子パネル検査とも呼ばれるこの検査法は、がん患者さんにとって、個別に合致した治療に到達するための手段として選択できるようになり、実施件数が増加傾向にあります。臨床検査の視点から、現在の日本国内におけるがんゲノム医療の現状、そして今後の展望についてわかりやすく解説されている国立がん研究センター 中央病院 臨床検査科 医長 角南久仁子先生による講演動画をご紹介いたします。
従来のがん治療は、臓器の種類によって治療が選択されてきました。しかし、同じ肺がんであっても原因となる遺伝子異常にはいくつか種類があることがわかってきています。がんの発生に直接的に関与する遺伝子異常は、ドライバー遺伝子異常と呼ばれており、遺伝子検査を実施してそれぞれの遺伝子異常に適した治療を選択することが、「がんゲノム医療」です。動画では、一例として、非小細胞肺がんのドライバー遺伝子異常の一つであるEGFR遺伝子異常に対する分子標的治療薬による治療効果が紹介されています。こうした遺伝子異常を見つけるために、がんに関連する数十~数百種類の遺伝子を一度に解析する検査がCGP検査です。遺伝子異常を網羅的に解析することで、遺伝子異常に応じた治療法と患者さんをつなぐことができると期待されています。日本国内で保険適用されている5種類のCGP検査の特徴や、実際の解析の流れについてもわかりやすく解説されています。
一方で、健康保険による医療費負担としてCGP検査を受けるには条件があります。がんゲノム医療中核拠点病院をはじめとして指定された医療機関で実施することや、標準治療がない、または終了(見込み)の患者さんが対象となること、1症例につき1回のみの実施となること、検査結果の解釈には専門家会議であるエキスパートパネルでの検討が必要となることが挙げられます。CGP検査の実施は、標準治療としてできることがない場合や、標準治療が終わった後になるため、選択肢は治験・先進医療・申出療養などに限られてしまうことから、エキスパートパネルにて推奨した治療に到達しているのは9.4%にとどまっており、治療到達性の向上が現在のがんゲノム医療の課題として挙げられています。そこで、試験的な研究として標準治療が終了してからではなく、がんの治療開始前にCGP検査を実施したところ、19.8%で遺伝子異常に合致した治療に到達できたとの報告も紹介されています。さらに、全てのDNA配列を明らかにする全ゲノム解析の結果を患者さんに還元するプロジェクトなど、現在進行中の検討についても紹介されています。
現在直面している課題が解決され、がんゲノム医療ががん治療において身近なものとなれば、個別化医療の推進につながり、がんに苦しむ患者さん一人一人に合った適切な治療が届くようになることが今後期待されます。
一般社団法人 日本臨床検査薬協会ホームページ内の一般向け動画「がんゲノム医療と臨床検査」(2025年1月10日)にて講演動画が公開されています。