拡張型心筋症の後天的要因とされる「クローン性造血」、経過に与える影響は未解明

東京大学医学部附属病院は6月13日、拡張型心筋症患者のゲノム解析および疾患モデルマウスを活用した解析により、クローン性造血が患者の予後を増悪させることを明らかにすると共に、その病態機序の一端を解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科先端循環器医科学講座の井上峻輔特任研究員、候聡志特任助教、野村征太郎特任准教授、小室一成特任教授、血液・腫瘍病態学分野の黒川峰夫教授、疾患生命工学センター動物資源学部門の饗場篤教授、先端科学技術研究センターの油谷浩幸シニアリサーチフェロー(東京大学名誉教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「JACC: Basic to Translational Science」に掲載されている。

画像: 画像はリリースより

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心不全はさまざまな原因疾患により心臓の機能が落ちることで、息切れなどを生じる状態を指し、日本の心疾患死因の第1位(約4割を占める)に位置している。心不全の原因となる病気の中でも、拡張型心筋症は心臓移植を必要とする最も重症な心不全の原因として日本では第1位を占めている。拡張型心筋症は他の心臓の病気よりも発症年齢が若く、血縁者にも発症が多く見られることから発症と進行に遺伝的な要因の関与が強い病気である。これまでに遺伝的な要因を有する拡張型心筋症は重症化しやすく、予後が不良であると報告されていた。しかし、拡張型心筋症の経過は生まれ持った遺伝的要因のみによって決定されるわけではなく、後天的な要因も関与する。血液細胞の後天的な変異として生じるクローン性造血はこの後天的な要因の候補の一つだが、拡張型心筋症の経過にどのように影響を与えるかは十分に明らかになっていない。

拡張型心筋症患者におけるクローン性造血の保有、若年傾向かつ高頻度

研究グループはまず、拡張型心筋症患者198人の血液から得られたDNAを解析することにより、拡張型心筋症に関わる先天的な遺伝子変異だけでなく、後天的なクローン性造血を評価した。全体の平均年齢は48歳で12%にクローン性造血を認め、保有率は年齢とともに増加していた。一般人口におけるクローン性造血の保有率は65歳で10%程度とされているため、一般人口よりも拡張型心筋症の患者ではより若年期かつより高頻度にクローン性造血を有していることが示唆された。左室収縮能の改善の頻度を用いて心不全の治療反応性を評価したところ、クローン性造血の有無は拡張型心筋症に関わる先天的な遺伝子変異の有無とは関係なく、独立して治療反応性不良を予測する因子であることが明らかになった。

拡張型心筋症マウス、クローン性造血併発で心機能低下と心臓線維化の悪化認める

次に、拡張型心筋症を引き起こすTTN遺伝子の変異を再現した拡張型心筋症疾患モデルマウスを樹立し、これにクローン性造血を引き起こすASXL1遺伝子の変異を再現したクローン性造血疾患モデルマウスの骨髄を移植することで、クローン性造血を伴う拡張型心筋症モデルマウスを確立することに成功した。このマウスでは心臓内の免疫細胞が活性化し、さまざまな炎症性サイトカインを分泌することで、TTN変異の拡張型心筋症疾患モデルマウスよりもさらに心機能の低下や心臓線維化の悪化が認められた。

クローン性造血標的とした治療法開発に期待

以上のことから、クローン性造血と心筋症に関連した遺伝子変異は病態進行において、相加相乗効果を持つことが明らかとなった。「今回の研究により、クローン性造血があることで拡張型心筋症患者の生命予後をより悪化させることがわかったことは、患者の予後予測をする上で有用であり、今後はさらにクローン性造血を標的とした新たな治療法開発が期待される」と、研究グループは述べている。(

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