前編では臨床検査の質を保証するための精度管理(Quality Control:QC)、総合的精度管理(Total Quality Control:TQC)および精度保証(Quality Assurance:QA)について解説した。本稿では、精度保証を目的とした「国際規格 ISO 15189」と「ISO 15189に基づく臨床検査室認定」について解説する。

ISO 15189

ISO 15189(臨床検査室-品質と能力に関する特定要求事項)は、臨床検査室の品質と能力を保証するために必要な要求事項を規定した国際規格である。2003年に国際標準化機構(International Organization for Standardization : ISO)から初版が発行され、その後3回の改定を経て第4版(ISO 15189:2022)が最新である(2024年3月時点)。内容は、「まえがき」「序文」に続き、箇条1から箇条8および附属書Aから附属書Cで構成されている。このうち、箇条4「一般要求事項」から箇条8「マネジメントシステムに関する要求事項」および附属書A(規定)「ポイント・オブ・ケア検査(POCT)に関する追加要求事項」には臨床検査の品質を保証するために必要な300を超える具体的な“要求事項”が記載されている。

以下、各箇条の要求事項について概要を解説する。

<4. 一般要求事項>
患者の健康と安全を最優先し、公平性を確保した差別のない検査室活動を遂行することが求められている。この中には患者情報の機密保持に関する要求事項も含まれる。

<5. 組織構成及びガバナンスに関する要求事項>
検査室運営のための組織体制を構築し、そのトップマネジメントの責務や権限を明確にし、検査室の目指す姿である方針やそれを実現していくための具体的な目標を設定し活動することなどが求められている。

<6. 資源に関する要求事項>
要員(検査室スタッフ)、検査室環境、機材や試薬・消耗品の管理に関する要求事項が規定されている。要員が検査室活動に必要な知識やスキルを習得、維持するための教育を提供し、その力量を評価するためのプロセスを持つことが要求される。検査室環境に関しては、要員の安全確保を含め、検査が適切に遂行できる環境の確保と整備が求められる。また機材や試薬・消耗品は検査結果に直接影響を及ぼす非常に重要なものであるため、その受け入れや管理等に関する要求事項が規定されている。その他、医師等の検査結果利用者との合意事項の確立(取り決め)、委託検査室(検査センター)や試薬・消耗品等納入業者等の評価や管理に関する要求事項もある。

<7. プロセスに関する要求事項>
検体採取、検査室までの検体搬送、検査室での受領等の検査前プロセス、測定等検査プロセス、検査結果の報告や検査終了検体の保管等の検査後プロセスなど、検査の流れに沿った要求事項が規定されている。その他、これらプロセス内での不具合(不適合)や苦情が発生した際の対応、検査室の情報マネジメントや災害等が発生した場合に備えた危機管理対策の策定なども求められている。

<8. マネジメントシステムに関する要求事項>
検査室の管理運営に関する要求事項が記載されている。検査室には購入した書籍や自分たちで作成した手順書等の文書類が多く存在する。また業務を遂行した結果、様々な記録が作成されるが、それら文書や記録類の管理、また検査室に潜むリスクの低減や検査室活動をさらに向上させる改善などを実施することが求められている。ISO 15189に基づき検査室を運営していく中で重要なのが自己チェックである。これはISO 15189、検査結果利用者との合意事項、また法的要求事項など、これらに対して検査室が適切に順守できているか否かを内部監査という形でチェックする。また、検査室全体が適切に運営できているか、臨床検査サービスを向上させるために何が必要かなどについて、トップマネジメントによりレビューするマネジメントレビューの要求事項もあり、PDCAを回して組織をより強固にしていくための仕組みを構築する。

<附属書A(規定)ポイント・オブ・ケア検査(POCT)に関する追加要求事項>
POCT(Point of Care Testing:POCT)は、看護部門など検査室以外の部門スタッフが測定する場合が多い。このように他部門との連携が必要であるので、相互の責務に関する合意事項、POCT機器の品質保証や機器操作者の研修等についての要求事項が規定されている。

臨床検査室認定

ISO 15189に基づく臨床検査室認定(以下、ISO 15189認定)制度は世界各国で運用されており、日本においては公益財団法人 日本適合性認定協会(Japan Accreditation Board :JAB)により2005年に開始された。フランスやオーストラリアなど海外ではISO 15189認定取得を義務付けている国もあるが、日本ではまだ義務付けられていない。2005年当初は大学病院や衛生検査所を中心として毎年10施設程度の認定取得数で推移していたが、2016年度診療報酬改定でISO 15189認定を取得した病院は国際標準検査管理加算として入院患者一人当たり月40点が算定できるようになり、これを機に認定取得施設数も大きく増加することとなった。2024年3月時点で300を超える施設が認定を取得しており、今後も増加していくものと思われる。また、臨床研究中核病院やがんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院など、一部の施設では認定要件の1つとして、このISO 15189認定取得が必須とされており、国の医療施策の中で臨床検査室の品質保証として認定制度の活用が始まっている。

この認定取得および維持にはそのための作業負担や費用面などの課題も多い。しかしISO 15189認定の取得は、その検査室の検査の質ならびに検査結果の信頼性も非常に高いということが国際的に認められた証であり、そこで従事するスタッフの方々は自信と誇りをもって日々臨床検査を遂行している。

著者:身野 健二郎(シスメックス株式会社 臨床戦略・学術本部)

【引用文献】

  1. 一般財団法人 日本規格協会. ISO 15189:2022 臨床検査室-品質と能力に関する要求事項(邦訳版).2022.
画像2: 臨床検査の質 後編 
ーISO 15189と臨床検査室認定ー

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