臨床検査は診療を行う上で非常に重要な情報を提供する。誤った検査結果を提供することにより、場合によっては誤った診療につながることもある。このため、“臨床検査の質”を保証することは非常に重要である。この“臨床検査の質”は、どのように確保し、保証されるのか?本稿では、「精度管理と第三者認定」について解説する。

国内において臨床検査は第二次世界大戦以前より行われており、当時は主に主治医や看護婦(当時の呼称)が実施していた。戦後になり臨床検査のみに従事する者が現れ、その従事者の身分を確保することを目的として1958年(昭和33年)に「衛生検査技師法」が制定された。その後、1970年(昭和45年)の法改正により、「臨床検査技師、衛生検査技師等に関する法律」が制定され、医師の指示のもと、医行為である採血業務および生理学的検査(生理機能検査)の実施が可能である臨床検査技師が誕生し、今日の臨床検査業界の発展へとつながってきた1)。発展の過程においては、臨床検査の質を保証するための様々な議論がなされ、そのひとつの手段である精度管理(Quality Control:QC)は当初から議論が重ねられてきた。

精度管理は内部精度管理と外部精度管理に分けられる。内部精度管理は検査室内における検査精度を維持すること、すなわち同じサンプルであれば、いつ、誰が測定しても同じ検査結果を報告できるようにしておくことを目的とする。一方の外部精度管理は、検査室間比較とも呼ばれ、複数施設の検査室に同じサンプルを配布して測定を行い、各検査室での測定結果を集計し、ばらつき等を分析するもので、検査結果の標準化を目的としている。国内では公益社団法人 日本医師会や一般社団法人 日本臨床検査技師会が主催する外部精度管理調査が古くから実施されており参加施設も多い。その他、各都道府県の医師会や臨床検査技師会、一般社団法人日本衛生検査所協会、またメーカーによる外部精度管理調査がある。海外では米国臨床病理医協会(College of American Pathologists : CAP)によるCAP国際臨床検査成績評価プログラムが世界的に最も有名で、国内で参加している施設も多くある。これら2つの精度管理は、臨床検査結果の質を保証する手段の第一義として現在もすべての検査室で実施されている。

次に総合的精度管理(Total Quality Control:TQC)という考え方がある。これは検体のサンプリングから結果報告までのプロセスを総合的に管理することで、検査結果の質を保証するという考え方である。この中には前述の精度管理も含まれ、内部精度管理と外部精度管理を“狭義の精度管理”、TQCを“広義の精度管理”と表現することもある。検査結果に影響を与える要因は、検体のサンプリング、検査室までの搬送、検査室で受領した後の処理や保管、また検査や検査後の結果報告プロセスなどの中に多く存在する。これらの要因が悪影響を与えないよう適切に実行するために、まず手順を明確にし、それらを確実に実行したことを示した記録を残すことで検査結果の信頼性が保証される。この考え方は法令にも適用されており、臨床検査技師等に関する法律施行規則には衛生検査所(検査センター)に対して、これら手順に関する標準作業書(手順書)と作業日誌(記録)の作成が義務付けられている。また2018年の医療法改正においては、国内すべての病院検査室に対して標準作業書および作業日誌の作成が義務付けられた2)

最後に品質保証(Quality Assurance:QA)について解説する。TQCは検体のサンプリングから結果報告まで、すなわち技術面を中心としたプロセスの保証であるが、この技術面と検査室の管理運営面を合わせた全体管理を行うことで、検査結果の質を保証していくという考え方がQAである。例えば、検査室の組織体制を構築し各々の責務や権限を明確にする、作成した手順書や記録を適切に維持管理する、検査機器や試薬・消耗品等の購入や在庫管理、適切な検査室環境の整備と維持、また検査過誤が発生した場合の対応などの仕組みを構築し、それらが適切に維持管理できているかを内部監査でチェックする。いわゆるPDCAを回していくことで臨床検査の質を保証していく。このような考え方を基にした国際規格「ISO 15189(臨床検査室-品質と能力に関する特定要求事項)」が発行されており、この認定制度は世界中で運用されている。同様の規格および認定制度には、先に述べたCAPが提供する臨床検査室認定「CAP-LAP(CAP- Laboratory Accreditation Program)」や国内の衛生検査所を対象とした「医療関連サービスマーク制度」などがある。いずれも検査室のQAが構築され、適切に維持管理されているかを第三者が審査し認定することで、検査結果が保証された検査室であることが証明される。

このように臨床検査の質を保証する程度は様々であるが、いずれにおいても検査室で働くすべての臨床検査技師は、この“臨床検査の質”を保証するため日々真摯に取り組み、自信をもって検査結果を患者や医師に報告している。そして、検査を依頼する臨床医の方々は安心してその検査結果を利用していただける。後編ではISO 15189について解説する。

著者:身野 健二郎(シスメックス株式会社 臨床戦略・学術本部)

【引用文献】

  1. 田畑勝好.検査技師の歴史.京都大学医療技術短期大学部紀要別冊 健康人間学.1995;7:26-30.
    [http://hdl.handle.net/2433/49523](2024年3月28日閲覧)
  2. 医療法施行規則(昭和二十三年厚生省令第五十号).
    [https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323M40000100050_20231227_505M60000100165&keyword=%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%B3%95%E6%96%BD%E8%A1%8C%E8%A6%8F%E5%89%87](2024年3月28日閲覧)
画像: 臨床検査の質 前編 
- 精度管理と第三者認定-

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