29の医療機関/1,500例の非小細胞肺がん症例に対する遺伝子検査実施の有無を調査

近畿大学は12月16日、日本における肺がん患者を対象とした遺伝子検査の実施状況について調査した結果、治療方針決定のために必要な遺伝子検査を十分に受けられていない症例があることが判明したと発表した。この研究は、同大医学部内科学教室(腫瘍内科部門)の高濱隆幸医学部講師と、鳥取大学医学部附属病院呼吸器内科・膠原病内科の阪本智宏特任助教、北九州市立医療センター呼吸器外科の松原太一らを中心とした研究グループが、西日本がん研究機構(WJOG)において、株式会社テンクー、武田薬品工業株式会社と実施した共同研究によるもの。研究成果は、「JAMA Network Open」に掲載されている。

画像はリリースより

肺がんは、進行速度や治療効果の違いによって、小細胞肺がんと非小細胞肺がんに大別され、そのうち非小細胞肺がんは肺がん全体の8~9割を占めている。非小細胞肺がんは、原因遺伝子()が複数知られており、治療の際はどの遺伝子に異常があるかを特定し、結果に応じて分子標的治療薬を用いることが、日本肺癌学会の発行する「肺癌診療ガイドライン2022年版」で推奨されている。ドライバー遺伝子の異常の特定は、従来一つの遺伝子に一つの検査(単一遺伝子検査)を行うことが通常でしたが、1つずつ検査を行うのでは費用も時間もかかり、適切な診断に結びつかないことがある。そのため、2019年と2022年に、複数の遺伝子を同時に検査できるマルチ遺伝子検査が保険適用となり、検査の幅が広がった。

しかし、これらのマルチ遺伝子検査は、測定のための検体が多く必要で患者に負担がかかる、結果返却に時間を要するといった課題も指摘されており、十分に普及していない可能性が指摘されている。そのため、異常のある遺伝子に応じて個別化医療を受けるべき肺がん患者が、そもそも適切な遺伝子検査を受けられていないという懸念がある。

そこで研究グループは、肺がん患者の遺伝子検査実施の正確な実態把握を目的として、全国29の医療機関において診断された1,500例の非小細胞肺がん症例における遺伝子検査実施の有無を調査した。

何らかの遺伝子検査は全体の86.1%で実施に対し、マルチ遺伝子検査はわずか47.7%

調査は2020年7月~2021年6月までの期間に初めて非小細胞肺がんと診断された1,500人の患者のうち、1,479人を対象として行った。その結果、何らかの遺伝子検査は全体の86.1%の症例で実施されていたが、マルチ遺伝子検査は全体の47.7%の症例でしか実施されていないことが判明した。

多くの遺伝子検査と結果に基づく分子標的治療が良い治療成績につながる可能性

さらに、ドライバー遺伝子変異の有無と標的治療の有無に分類して、患者の生存期間を比較した。(1)遺伝子検査の結果、ドライバー遺伝子が見つかり分子標的治療を受けた患者、(2)遺伝子検査の結果、ドライバー遺伝子が見つかったが対応する分子標的治療薬を受けられなかった患者、(3)検査の有無に関わらずドライバー遺伝子が見つからなかった患者の生存期間を解析したところ、患者の生存期間中央値はそれぞれ(1)24.3か月、(2)15.2か月、(3)11.0か月だった。

これらの結果から、できるだけ多くの遺伝子検査が適切に実施され、その結果に基づく分子標的治療が行われることが、患者のより良い治療成績につながることが示唆された。また、遺伝子検査が実施されない理由として、パフォーマンスステータス(PS)不良、合併症、組織型扁平上皮がんの影響が挙げられた。しかし、PS不良例であってもドライバー遺伝子が見つかった場合には症状の改善が期待でき、扁平上皮がんの症例においてもドライバー遺伝子陽性の症例は見つかっているため、改善の余地があると考えられる。

肺がんのより良い治療を実現にはマルチ遺伝子検査の普及が望ましい

今回の研究成果により、遺伝子検査を十分に受けられていない患者が潜在的に存在する可能性があり、日本において肺がんのより良い治療を実現するためには、さらなるマルチ遺伝子検査の普及が望ましいことが明らかになった。「今後もさらに追跡調査を継続し、予後なども解析する予定だ」と、研究グループは述べている。(

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