生後1歳までのアトピー性皮膚炎と湿疹について検討
富山大学は3月2日、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の参加者を対象に、生まれた季節と乳児期に発症する湿疹およびアトピー性皮膚炎の関連を調査し、春生まれと比較して、「秋生まれ」の子どもが6か月の時点で湿疹の発症が多くなり、その関連は1歳時点でも同様であることが明らかになったと発表した。この研究は、同大学術研究部医学系公衆衛生学講座の土田暁子助教らの研究グループが行ったもの。研究成果は「BMC Pediatrics」に掲載されている。
花粉症といえば春や秋、風邪・インフルエンザは冬、夏は熱中症や食中毒、といったように、特定の季節に多く発症する病気はいろいろあるが、「生まれた季節」によってかかりやすい病気もある。いくつかの先行研究より、アレルギー疾患、斜視、股関節脱臼、精神神経障害などが生まれた季節によって発症のしやすさに差があることが報告されている。自分自身が生まれた季節を変えることはできないが、「生まれた季節」によって、何に注意して予防したらよいのかを明らかにするために、このような病気について詳しく調べていく必要がある。
アトピー性皮膚炎は、小児期に高頻度で発症するアレルギー疾患で、日本国内では、小児の10~20%程度は発症するとされている。かゆみを伴う湿疹が生じるのが特徴で、食べ物やダニなどのアレルギー物質の影響を受けて悪化する。かゆみの症状が強いと皮膚をかきむしり、睡眠が十分にとれないなど日常生活に支障をきたす場合もあるので、本人やケアをする家族の負担や心労は非常に大きく、「生まれた季節」とアトピー性皮膚炎の発症について詳しく調べていくことは非常に重要だ。
これまでに研究グループは3歳までのアトピー性皮膚炎発症を調べ、秋生まれの子が、春生まれの子よりアトピー性皮膚炎の発症が多いことを明らかにしてきた。しかし、日照時間と湿度との関連ははっきりしていなかった。そこで今回は、アトピー性皮膚炎の診断だけでなく、生後1歳までに保護者が報告した子どもの湿疹の症状についても検討し、秋生まれとの関連がどのくらい早期から見られるのか検討した。
全国約8万人の子どもを対象に調査
対象は、北海道から沖縄県まで全国15のエコチル調査の研究拠点で登録された子ども8万1,615人。今回調べたのは、保護者が判定したa)生後1か月の湿疹、b)生後6か月の湿疹、c)1歳の湿疹、保護者が報告したd)1歳までのアトピー性皮膚炎の診断、の4項目で、生まれた季節とそれぞれの発症との関連を多変量解析で検討した。
対象の子どものうち、それぞれの症状を有していたのは、a)生後1か月の湿疹:61.0%、b)生後6か月の湿疹:33.0%、c)1歳の湿疹:18.7%、d)1歳までのアトピー性皮膚炎の診断:4.3%だった。
「秋生まれ」の子、生後6か月以降で湿疹やアトピー性皮膚炎の発症が高い
はじめに、生まれた月別の発症状況を比較するため、5月を基準として各生まれ月における湿疹およびアトピー性皮膚炎の出現の調整オッズ比を計算したところ、生後1か月の湿疹では7月生まれで最も高く、生後6か月の湿疹は11月生まれ、1歳の湿疹とアトピー性皮膚炎は10月生まれが最も高くなることがわかった。生後6か月以降で秋生まれの子が湿疹やアトピー性皮膚炎の発症が高いということもわかった。
生後6か月時点と1歳時点では逆の季節を過ごしていることになるため、観察している季節が異なる。それを考慮しても、秋生まれでは、春に観察する生後6か月時点と、秋に観察する1歳時点のいずれでも、他の季節生まれより湿疹の有病率が高いことがわかった。
母親にアレルギー歴がある男児、季節と発症との関連が高い
最後に、児の性別と母親のアレルギー歴の有無で分けて、季節と1歳時点までのアトピー性皮膚炎の発症との関連を調べた。その結果、母親のアレルギー歴に関係なく、男児では春生まれより秋生まれでアトピー性皮膚炎の発症が統計的に有意に高いことがわかった。また、母親にアレルギー歴があると、男児でも女児でも、春生まれと比べて秋生まれの子で発症しやすくなるという関連が見られた。さらに、母親にアレルギー歴がある男児においては、夏生まれにおいてもアトピー性皮膚炎の発症が統計的に有意に高いことがわかった。
男児や母親にアレルギー歴がある場合、早期からの適切なスキンケアにより予防できる可能性
今回の調査では、生後6か月時点と1歳時点という季節が異なる2時点で観察したが、いずれも秋生まれの子で湿疹が発症しやすく、またこれまでの報告通り1歳までのアトピー性皮膚炎の発症も秋生まれに多いことがわかった。アトピー性皮膚炎の発症には、皮膚の乾燥とそれによる皮膚バリアの崩壊が大きなリスク要因と指摘されている。秋生まれの子ども、特に男児や母親にアレルギー疾患歴がある場合は、早期から適切なスキンケアを行うことで、アトピー性皮膚炎の発症を予防できる可能性がある。
一方、研究の限界点として、次のような点が挙げられる。一つは、湿疹の有無とアトピー性皮膚炎の診断を、保護者の回答する質問票より行ったため、客観的な情報収集ができていないこと。次に、生後1か月時点と生後6か月および1歳時点では湿疹の有無を尋ねる質問文が異なるため正確な時系列の比較ができていないこと。さらに、アトピー性皮膚炎は遺伝的要因によって発症のしやすさが異なるが、遺伝的要因を検討できていないことなどである。「今後は、どの季節に生まれてもアトピー性皮膚炎の発症が予防できるように、季節変動するさまざまな因子との関連をさらに調べていく必要がある」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)