米国心臓協会(AHA)はこのほど、より多くの高リスク肺血栓塞栓症(PE)患者に対する手術の考慮を勧めるとの声明を発表した。AHAの心臓血管外科・麻酔科評議会、動脈硬化症・血栓症・血管生物学評議会、生活習慣・心血管代謝健康評議会、末梢血管疾患評議会を代表する内容として作成されたこの声明文は、「Circulation」に1月23日掲載され、米国胸部外科学会(STS 2023、1月21~23日、米サンディエゴ)でも同時発表された。
PEは、血栓が血液の流れに乗って肺に運ばれ、肺の動脈が詰まって起こる疾患であり、米国では心血管疾患による死因としては3番目に多い。PEを発症した患者のうち、重症化する患者の割合は約45%と推定されている。重症PE患者では、血栓によって肺の血圧が上昇し(肺高血圧)、右室への負荷がかかり、死亡リスクが高まる。現行の治療ガイドラインに従った治療が行われた場合でも、死亡リスクは一部の患者群で約40%に上る。
PEの治療選択肢としては、抗凝固療法あるいは血栓溶解療法、薬剤やカテーテル治療によって血栓を壊す治療がある。そのほかにも、先進的な外科的介入や機械的循環補助(MCS)などの選択肢がある。ただし、手術は他の治療が奏効しなかった場合の最後の手段とされることが多い。
これに対して今回の声明では、重症のPE患者に対しては、早期段階で手術を考慮することが勧められている。声明文の筆頭著者で、米ウェストチェスター心臓血管センターの胸部心臓外科医であるJoshua Goldberg氏は、「この声明では、心停止となり心肺蘇生(CPR)を受けた患者を含む最も重症の患者においても、最新の外科的治療戦略とMCSによって極めて高い生存率(97%)を達成できることを明確に示した」と説明。その上で、「現在、最新の外科的戦略とMCSは、ほとんど活用されていない」と指摘している。
声明ではこのほかに、PEのリスクレベルの定義の見直しが、より早期の外科的介入によりベネフィットを期待できる患者の特定に役立つ可能性に言及している。また、中リスクおよび高リスクの患者での治療効果をモニタリングするための患者登録の開始や、医師および外科医に対する外科的介入の選択肢に関する教育の強化を求めている。
Goldberg氏は、「われわれは、今回の声明がきっかけとなって、高リスクPEという最も不安定な状態の患者に対する最新の外科的介入とMCSの安全性と有効性についての認知度が高まることを期待している。また、PEの経過と有効な治療法についての理解が深まり、この高頻度に生じる致死的な疾患に罹患した患者の生存率を向上させるための研究がより積極的に行われるようになることを望んでいる」と述べている。(HealthDay News 2023年1月25日)
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