変異株の流行状況が大きく変化したことから、変異株の分類を見直し
国立感染症研究所は3月31日、「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について(第15報)」と題した速報を発表した。これは、2022/03/28 9:00時点の報告で、2021/10/28 12:00時点の第14報以来5か月ぶりとなるもの。なお、同報は、迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。
2021年11月28日にB.1.1.529系統を懸念される変異株(VOC)と位置付けて以来、オミクロン株は国外でも、国内でも割合が増加しデルタ株からの置き換わりが進行し、WHOの報告によると、世界でも過去30日間にゲノム解析されGISAID登録されたウイルス株の99.8%を占め、デルタ株が0.1%を占めるのみとなった。国内でも全てオミクロン株に置き換わった状況にある。変異株の流行状況が大きく変化したことから、変異株の分類を見直す運びとなった。
ベータ株、ガンマ株はVUMに変更、旧カッパ株、ラムダ株、ミュー株はVUMから除外
B.1.351系統の変異株(ベータ株)、P.1系統の変異株(ガンマ株)については、世界的に検出数は継続して減少し、GISAIDデータベース上では最終検出日は、それぞれ、2021年12月30日、2022年1月10日と2か月以上にわたって検出されていない。そのため、監視下の変異株(VUM)に位置付けを変更した。
B.1.617.1系統の変異株(旧カッパ株)、C.37系統の変異株(ラムダ株)、B.1.621系統の変異株(ミュー株)についても、世界的に検出数は減少し、GISAIDデータベース上での最終検出日は、それぞれ、2022年2月14日、2022年1月29日、2022年2月11日である。国内では、旧カッパ株は2021年5月7日、ミュー株は2021年8月4日が最後の検出日であり、ラムダ株は国内では検出されていない。そのため、VUMの位置付けから除外した。
デルタ株AY.4.2系統はVUMから除外、アルファ株は散見されるためVUM維持
AY.4.2系統の変異株については、GISAIDデータベース上での最終検出日は2022年2月17日で、国内では検出されたことがない。デルタ株全体として大幅に検出が減少しており、デルタ株の中でAY.4.2について現状で特段増加の優位性を認めるものではないことから、VUMの位置付けから除外した。
以前よりVUMに位置付けていたB.1.1.7系統の変異株(アルファ株)については、国内では2021年10月1日以降登録がないが、GISAIDデータベース上では現在も散発的に登録がある。そのため、VUMの位置付けを維持する。
デルタ株とオミクロン株の組換え体は「監視を続行」
SARS-CoV-2を含めRNAウイルスにおいて遺伝子組換え(2種あるいはそれ以上の同種または近縁ウイルス間で、遺伝子の一部が組換わったゲノムを有するウイルスが生成すること)が起こりうることはよく知られている。異なる系統のウイルスが宿主に同時感染することで生じると考えられるが、SARS-CoV-2についても異なる系統間の組換え体と考えられるウイルスが検出された事例があり、PANGO系統(XA/XB/XC系統)に分類されているものもある。
デルタ株とオミクロン株の組換え体は、おそらくは、デルタ株からオミクロン株への置き代わりの時期に、ヒトなどでの共感染によって出現し、感染が維持されたものが検出されていると考えられる。いくつかの組換え体については、PANGO系統の付与、あるいはモニタリング対象として指定されているほか、UK Health Security Agencyによると、英国は、デルタ株とオミクロン株の組換え体を包括的にVariants in monitoring(監視中の変異株)として扱っている。
XD系統はAY.4系統とBA.1系統の組換え体で、スパイクタンパク質の一部がBA.1系統に組み換わっている。ベルギー、デンマーク、フランスで検出されている。WHOとECDCはこれをVUMに位置付けている。XF系統も、AY.4系統とBA.1系統の組換え体で、英国で検出されたものである。スパイクタンパク質を含めてほとんどがBA.1系統だが、N末端がデルタの系統に組換わっている。ECDCはこれをVUMに位置付けている。英国では2022年2月15日以降検出されていない。
そのほかにも、組換えを起こした系統や組換わった部分が異なる複数種類のデルタ株とオミクロン株の組換え体が報告されている。これらの組換え体のウイルス学的な性質や感染者における症状等はまだ明らかではなく、特段これまでの変異株と形質が異なるという所見はない。また、検出数も多くはなく、感染研は「引き続きゲノムサーベイランスの中で動向を監視していく」としている。(QLifePro編集部)