血液疾患患者の新型コロナワクチン接種前後の抗体価の変化を健常者と比較
藤田医科大学は1月20日、血液疾患患者を対象に新型コロナウイルスワクチン接種後の抗体価の推移について解析を行い、中でも悪性リンパ腫治療中もしくは治療終了後数か月までの患者における抗体の獲得が特に不良であることを確認したと発表した。この研究は、同大医学部血液内科学の岡本晃直講師、冨田章裕主任教授、大学院保健学研究科藤垣英嗣准教授、齋藤邦明教授らを中心とした多施設共同研究グループによるもの。研究成果は、「Blood Advances」オンライン版に掲載されている。
研究グループは今回、藤田医科大学、岐阜市民病院、安城更生病院において、研究参加に文書による同意した血液疾患患者263人、および健常人ボランティア41人において、新型コロナウイルスワクチン接種前後に採血を行い、抗体価の変化を比較した。
特にリンパ腫治療中・治療後まもない患者では、ワクチン接種後の抗体獲得が困難
健常者では、2回目接種後に全ての人(100%)において、抗体価の上昇を確認した(いずれも20 U/mL以上)。一方、血液疾患患者においては、リンパ系腫瘍、骨髄系腫瘍、良性疾患患者のいずれの群においても抗体獲得を認めた割合が低い傾向にあった。特に、リンパ腫治療中の患者(51人)では、2回目接種後に抗体価の上昇(20 U/mL以上)を認めたのは1人のみ(2.0%)と、特に抗体獲得割合が低いことを確認した。
また、治療実施中のリンパ腫患者、および治療終了から3か月〜1年半以上経過したリンパ腫患者について同様の検討を行ったところ、治療終了後9か月以上経過した患者において、徐々に抗体獲得が可能となる傾向が確認された。また、ワクチン接種前にそれぞれの患者において血液検査を行い、身体がどのような状況であれば抗体が獲得されるのか、種々の検査値と獲得抗体価との関連を検討し、血液中のCD19陽性細胞(Bリンパ球)数、CD4陽性細胞(CD4陽性Tリンパ球)数、および血清免疫グロブリンM(IgM)値が、抗体獲得に重要であることを確認した。
リンパ腫治療中・治療後の患者において、ワクチン接種後の抗体獲得に関与する検査値を同定
抗体価測定のための採血は、ワクチン接種前、1回目接種後7~21日後、2回目接種後約14~28日後に行った。抗体価測定試薬はアキュラシードCOVID-19抗体(富士フイルム和光純薬株式会社)を用いた。また、ワクチン接種前の末梢血を用いて、血球の数や種類、免疫グロブリン(IgG、IgA、IgM)などの値を測定し、抗体価の上昇との関連性を検討し、ワクチン接種によって抗体価上昇が得られるか否かをあらかじめ推測できる検査値の同定を試みた。
血液疾患患者におけるワクチン接種後の抗体価上昇は、健常人に比べ低い傾向にある。実際に、健常者における抗体獲得陽性者(20U/mL以上)は100%であったのに対し、骨髄系腫瘍では67.3%、リンパ系腫瘍では45.5%、良性疾患では65.8%と、いずれも低い傾向だった。獲得抗体価の中央値も、それぞれの群で80.7 U/mL、12.0 U/mL、57.6 U/mLと、健常者の105.6 U/mLに比べ、低い傾向が確認された。
血液疾患ごとに抗体獲得患者の割合には違いがあり、また、同じ疾患の患者の中でも獲得抗体価には個人差がある。抗体獲得の状況には病型のみならず、個々の患者における病気の状態や治療種類や実施時期なども影響を与えていることが推測される。なお、患者にはそれぞれ疾患ごとの治療法、薬剤投与が行われていた。
疾患や治療薬の種類のみならず、患者の身体状況によって反応性が異なる
リンパ腫治療中の患者におけるワクチン接種後の抗体獲得は極めて不良だ。健常者では2回目接種後に全ての人(100%)で抗体価は上昇した(中央値105.6 U/mL、全ての方で20U/mL以上)。一方、リンパ腫治療中の患者(51人)では、2回目接種後に20U/mL以上に獲得抗体価が上昇した患者は1人のみだった(中央値0.0 U/mL)。リンパ腫治療中の51人のうち、B細胞リンパ系腫瘍患者は46例で、その全てにおいて抗体価の20 U/mL以上の獲得が確認されなかった。治療薬は、B細胞リンパ系腫瘍に使用される抗CD20抗体治療薬(リツキシマブ、オビヌツズマブ)が39人に使用されていた。
抗CD20抗体治療薬を含む治療を実施中、実施後のリンパ系腫瘍患者では、時間経過とともに抗体獲得する機能が徐々に回復。抗CD20抗体治療薬を含む治療を実施した患者は、投与終了後9か月までは抗体獲得が困難であることが推測され、またそれ以上経過した患者においても、抗体獲得が困難である例が存在することがわかった。このことは、疾患や治療薬の種類のみならず、それぞれの患者の身体の状況によって反応性が異なることを意味しており、臨床現場においても注意を要する所見と考えられた。
抗CD20抗体治療薬を含む治療を実施中、実施後の患者において、末梢血中のCD19陽性細胞数はワクチン接種後の抗体価の上昇に有意に相関する。今回の研究では、ワクチン接種前の患者の末梢血の採血を行い、接種後の獲得抗体価との関連性を検討したところ、末梢血CD19陽性細胞数は、抗体獲得と特に有意な相関が認められることが確認された。また、その他CD4陽性細胞数やIgMの値も、抗体獲得と有意な相関を認めることが確認された。
CD19陽性細胞数が少ない場合に、ワクチン接種による抗体獲得能力が低い可能性
抗CD20抗体治療薬を含む治療を実施中もしくは実施直後の患者における抗体獲得割合が極めて低いことが今回の研究で示されたが、これらの値を接種前に測定することで、ワクチン接種の効果をあらかじめ推測できる可能性が高く、臨床現場における接種の適応を考える上で有用な情報となることが予想される。末梢血中のCD19陽性細胞とは、白血球の中のBリンパ球を指す。Bリンパ球は、外敵(異物)から身を守るための免疫反応に重要な細胞であり、形質細胞に分化して抗体を産生する機能を持っている。そのため、CD19陽性細胞数が少ない場合に、ワクチン接種による抗体獲得能力が低いという結果は、理にかなっていると考えられる。
血液疾患患者、特にリンパ腫治療中・治療後間もない患者は感染対策、感染早期の治療開始が重要
今回の研究により、血液疾患患者、特に、抗CD20抗体治療薬を含む治療の実施中や実施後間もないB細胞リンパ系腫瘍患者において、新型コロナワクチン接種後の抗体獲得が不良であることが確認された。測定したIgG抗体は、ウイルスの感染や増殖を抑制する中和活性と高い相関があるため、抗体獲得が十分ではない患者においては、ワクチンの効果が十分に得られにくい可能性を示している。ただし、新型コロナウイルス感染症の発症や感染してからの生体の反応は、獲得した抗体の効果だけではなく、細胞性免疫などその他の免疫機構によっても影響を受けると考えられるという。そのため、抗体価の低下がどの程度ワクチンの発症予防効果、重症化予防効果などの低下を示しているかは今後も研究が必要と考えられる。
同研究結果をふまえて、血液疾患患者、特にリンパ腫治療を実施中、実施直後の患者については、「ワクチン接種後であっても抗体が獲得されない場合があるため、マスク着用、手洗い、消毒などの感染予防対策を継続する」「患者家族などサポートにあたる人は、患者が抗体を獲得していない可能性を考え、感染予防対策を実施し、ワクチンを接種するなどで、患者への感染の可能性をできる限り減らす配慮をする」ということに注意が必要だ。
「本研究において、ワクチン接種の効果を予測する血液検査値の候補も挙げられたことから、今後どの患者においてワクチン接種を実施するかを考慮する場合に、1つの参考情報となればと考える。また、ワクチン接種の効果が不十分である患者を認識することは、抗新型コロナウイルス薬や抗体治療薬を、どの患者に対してどのタイミングで使用するかについて、より実質的な治療戦略を考えていく上で重要な情報となると考えられる」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)