新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬・ワクチンの開発動向をまとめました。

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治療薬
ワクチン

治療薬

■国内で使用されている主な薬剤

画像: ■国内で使用されている主な薬剤

レムデシビル
レムデシビルはもともとエボラ出血熱の治療薬として開発されていた抗ウイルス薬。ウイルスのRNAを合成する酵素プロテアーゼを阻害することで増殖を抑える薬剤です。

日本では2020年5月、重症患者を対象に「ベクルリー」の製品名で特例承認。21年1月には添付文書が改訂され、中等症の患者にも投与できるようになりました。従来は日本政府とギリアドの販売契約に基づき、国が一括して買い上げて医療機関に配布してきましたが、安定供給の見通しがたったことから、21年8月に保険適用され、同年10月からは通常の医薬品と同様の流通体制へと移行しました。

これまでの知見によると、レムデシビルは人工呼吸や高流量の酸素投与に至った重症例では効果が期待できない可能性が高いものの、そこまで重症化していない酸素需要のある患者には有効性が期待できる薬剤です。

デキサメタゾン
デキサメタゾンは重症感染症や間質性肺炎などの治療薬として承認されているステロイド薬。先発医薬品「デカドロン」(日医工)のほか、複数の後発医薬品が販売されています。英国で行われた大規模臨床研究で重症患者の死亡を減少させたと報告されており、標準的な治療法の1つとなっています。

バリシチニブ
JAK阻害薬バリシチニブ(製品名・オルミエント)は、サイトカインによる刺激を伝えるJAK(ヤヌスキナーゼ)を阻害する薬剤。COVID-19は重症化すると、サイトカインストームと呼ばれる過剰な免疫反応に重篤な臓器障害を起こすことが知られています。バリシチニブは免疫異常による炎症を抑える作用を持ち、日本では20年4月に中等症から重症の患者を対象に特例承認されました。日本では、入院下でレムデシビルと併用しますが、米国ではレムデシビルと併用しない投与も認められています。

カシリビマブ/イムデビマブ
中和抗体カシリビマブ/イムデビマブ(製品名・ロナプリーブ)は、2つの中和抗体を組み合わせて使う抗体カクテル。新型コロナウイルス表面のスパイクタンパク質に結合し、抗ウイルス作用を発揮します。米リジェネロンが創製し、中外は日本での開発・販売権を保有。21年7月に治療薬として特例承認を取得し、同年11月には濃厚接触者と無症状感染者に対する発症抑制のための投与も承認されました。

同薬の投与対象となるのは、重症化リスク因子を持つ軽症・中等症の患者。ただし、現在、国内でも感染者が増加しているオミクロン株では中和活性が低下することが報告されており、厚生労働省はオミクロン株への感染が明らかな患者やその可能性が高い患者にはカシリビマブ/イムデビマブの投与は推奨されないとしています。

ソトロビマブ
ソトロビマブ(製品名・ゼビュディ)は、新型コロナウイルスに対する中和抗体。英グラクソ・スミスクライン(GSK)と米ビル・バイオテクノロジーズが共同開発したもので、21年9月に特例承認を取得しました。ロナプリーブと同様に、重症化リスクの高い軽症・中等症の患者が対象となります。

モルヌピラビル
モルヌピラビル(製品名・ラゲブリオ)は、RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害薬。ウイルスの増殖を防ぐ効果があり、日本では21年12月に新型コロナに対する初の経口抗ウイルス薬として特例承認されました。

モルヌピラビルの投与対象となるのは、重症化リスク因子を持つ軽症から中等症の患者。1回4カプセルを1日2回、5日間投与します。国際共同P3試験では、入院や死亡のリスクをプラセボに比べて30%抑制しました。海外では、21年11月に英国で世界初の承認を取得し、同年12月には米国でも緊急使用許可を取得しています。

トシリズマブ
抗IL-6受容体抗体トシリズマブ(製品名・アクテムラ)は、サイトカインの一種であるIL-6(インターロイキン-6)の作用を阻害することで炎症を抑える薬剤。バリシチニブと同様に、免疫異常による炎症を抑制し、重症患者の症状を改善する薬剤として有効性の検証が進められ、日本では今年1月に承認されました。米国でも21年6月に緊急使用許可を取得しており、欧州でも同年12月に承認されています。

ニルマトレルビル/リトナビル
ファイザーが開発した抗ウイルス薬ニルマトレルビル/リトナビル(製品名・パキロビッドパック)は、今年1月に日本で特例承認を取得。ファイザーが創製した3CLプロテアーゼ阻害薬ニルマトレルビルと、同薬の代謝を阻害して効果を高めるリトナビルを併用します。

高リスクの軽症から中等症の患者を対象に行われた臨床試験では、入院・死亡のリスクを89%(発症から3日以内に服用開始)または88%(発症から5日以内に服用開始)抑制しました。

その他
抗インフルエンザウイルス薬として承認されているファビピラビル(製品名・アビガン)は、20年10月に富士フイルム富山化学が承認申請を行いましたが、厚生労働省の専門家部会は「効果が確認できない」として承認を見送りました。従来は、観察研究として国が医療機関に薬剤を提供していましたが、21年12月、厚労省は観察研究のための提供を終了。富士フイルム富山化学が21年4月から行っていた2本目のP3試験も22年3月末で患者登録が打ち切られます。

疥癬などの治療薬として承認されている駆虫薬イベルメクチン(MSDの「ストロメクトール」)もウイルスの増殖を阻害する可能性があるとされており、北里大がCOVID-19の適応追加を目指した医師主導治験を進めているほか、興和が企業治験を実施中です。

早い時期から治療薬候補として注目されていた吸入ステロイド薬シクレソニド(帝人ファーマの「オルベスコ」)は、国立国際医療研究センターが行った特定臨床研究で、対症療法群に比べて有意に肺炎の増悪が多かったとの結果が出ました。同センターは「海外で行われている検証的な臨床試験の結果も踏まえて判断する必要があるが、今回の結果からは、無症状・軽症の患者に対するシクレソニドの投与は推奨できない」としています。

ウイルスの細胞内への侵入を阻止する可能性があると期待されていたタンパク分解酵素阻害薬ナファモスタットと同カモスタットは、いずれも開発を中止。ナファモスタットは第一三共が吸入製剤の臨床試験を進めていましたが、安全性に対する懸念から開発をやめました。カモスタットも、先発医薬品「フオイパン」を製造販売する小野薬品工業が行った臨床試験で有効性を示すことができませんでした。

■開発中の主な薬剤

経口抗ウイルス薬
塩野義製薬のS-217622はニルマトレルビルと同じ3CLプロテアーゼ阻害薬で、現在、P2/3試験の最終段階を実施中。日本では今年2月、同試験のP2bパートの結果をもとに、条件付き早期承認の適用を求めて承認を行いました。米NIH(国立衛生研究所)の支援を受けたグローバルP3試験も始まる予定です。

米アテアが創製したRNAポリメラーゼ阻害薬AT-527も国際共同P3試験が進行中。同社はスイス・ロシュと同薬の開発・販売で提携していますが、21年11月に契約を今年2月で解消すると発表しました。日本ではロシュ傘下の中外製薬が臨床試験を行っていましたが、提携解消に伴って国内での開発を終了。アテアは独自に開発を続ける方針ですが、日本での開発については明らかになっていません。

オンコリスバイオファーマは鹿児島大が見出した抗ウイルス薬を開発しており、22年上半期までに前臨床試験を終え、その後、臨床試験に入ることを目指しています。ペプチドリームは抗ウイルス作用を持つ特殊ペプチドの開発を進めていて、20年10月に富士通などと開発のための合弁会社を設立。富士通の量子コンピューティング技術などを活用し、開発を加速させるといいます。

中和抗体
カシリビマブ/イムデビマブやソトロビマブ以外の中和抗体では、英アストラゼネカの抗体カクテルAZD7442が21年12月に米国で緊急使用許可を取得。日本でも開発が行われています。米国では、イーライリリーとカナダのアブセラが開発した中和抗体バムラニビマブ/エテセビマブも緊急使用許可を得ています。

重症患者に対する治療薬
エーザイは、かつて重症敗血症を対象に開発していたものの、P3試験で主要評価項目を達成できずに開発を中止したTLR4拮抗薬エリトランの臨床試験を開始。試験は、Global Coalition for Adaptive Researchによる国際共同治験「REMAP-COVID」として行われ、米国で開始したあと、日本を含むグローバルへと拡大する予定です。エリトランは、サイトカイン産生の最上流に位置するTLR4(Toll様受容体4)の活性化を阻害する薬剤で、サイトカインストームの抑制を狙います。

塩野義製薬は、アレルギー性鼻炎を対象に開発していたDP1受容体拮抗薬「S-555739」について、COVID-19の重症化を抑制する薬剤として、米バイオエイジに導出する契約を締結。同社は今年上半期中にP2試験を開始する計画です。

ワクチン

WHOの3月15日時点のまとめによると、現在、臨床試験に入っているCOVID-19ワクチン候補は149種類。このほかに195種類が前臨床の段階にあります。

画像: ワクチン

■ファイザー、モデルナなど承認

これまでに承認(緊急使用許可を含む)を取得した新型コロナウイルスワクチンは、▽米ファイザー/独ビオンテック(mRNAワクチン)▽米モデルナ(同)▽英アストラゼネカ/英オックスフォード大(ウイルスベクターワクチン)▽米ジョンソン・エンド・ジョンソン(同)▽ロシア国立ガマレヤ研究所(同)▽中国シノファーム(不活化ワクチン)▽同シノバック(同)――など。

日本では、21年2月にファイザーとビオンテックのワクチンが特例承認を取得。同年5月にはアストラゼネカとモデルナの2つのワクチンも特例承認を取得しています。

組換えタンパクワクチンの開発は、米ノババックスが先行。21年6月には、米国などで行った3万人規模のP3試験で90%の発症予防効果が示されたと発表しました。欧州などですでに承認を取得しており、日本では製造と供給を担う武田薬品工業が21年12月に承認申請。仏サノフィと英GSKも共同で組換えタンパクワクチンを開発中で、日本でも21年7月からP3試験が行われています。

現在、世界で猛威を振るっている変異株オミクロンに対しては、ファイザー/ビオンテックやモデルナが対応するワクチンを開発しており、海外で臨床試験が行われています。

■「国産」ワクチンは

日本勢では、塩野義製薬が組換えタンパクワクチンの21年度中の承認を目指して21年10月からP2/3試験を日本で開始。同年12月には、ベトナムでグローバルP3試験を始めました。第一三共のmRNAワクチンは同年11月からP2試験を始めていて、21年度中のP3試験入りと22年中の実用化を目指します。不活化ワクチンを開発しているKMバイオロジクスも21年10月からP2/3試験を行っています。

米VLPセラピューティクスは、mRNAワクチンのP1試験を21年10月に日本で開始しており、21年度中にP2/3試験に入りたい考え。国から143億円の助成を得て、国内で生産体制を整備します。田辺三菱製薬もカナダ子会社のメディカゴが開発した植物由来VLPワクチンのP1/2試験を21年10月から日本で行っています。

(公開:2020年2月28日/最終更新:2022年3月18日)

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