脱毛症とJAK1機能獲得型変異の関連は報告がなかった
国立成育医療研究センターは10月17日、一般的な治療では改善が難しい重症アトピー性皮膚炎、脱毛症、自己免疫性甲状腺疾患を発症した患者において、新しいJAK1遺伝子変異を発見し、この遺伝子変異によりJAK1(ヤヌスキナーゼ1)が異常に活性化していることが疾患の原因であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター免疫アレルギー・感染研究部/アレルギーセンターの森田英明氏、藤多慧氏、ゲノム医療研究部の要匡氏、柳久美子氏、アレルギーセンターの福家辰樹氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Allergy and Clinical Immunology」に掲載されている。

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一般的にアレルギー性疾患は、環境要因を含むさまざまな外的な要因と、遺伝的素因が複雑に絡み合って発症する多因子疾患と考えられている。一方で、近年の遺伝学研究の進歩により、早期から発症する重症、または一般的な治療が効かないアレルギー・自己免疫疾患のある患者の中には、JAK(ヤヌスキナーゼ)やSTAT(シグナル伝達兼転写活性化因子)の機能獲得型(遺伝子の変異によって、タンパク質の働きが通常よりも強くなる)または機能喪失型変異(遺伝子の変異によって、タンパク質の働きが無くなる)による先天性免疫異常症が存在することが明らかになってきた。JAK1はIL-4、インターフェロンα、インターフェロンγなどさまざまなサイトカインの下流シグナル伝達に関与しており、その異常活性化は広範囲な炎症・自己免疫疾患を引き起こす可能性がある。
これまでに27例のJAK1機能獲得型変異による症例が報告されており、自己免疫性甲状腺疾患、サルコイドーシス、炎症性腸疾患、アトピー性皮膚炎などを発症することが知られている。しかし、JAK1機能獲得型変異により脱毛症を発症した報告はこれまでなかった。
重症アトピー性皮膚炎/脱毛症/自己免疫性甲状腺疾患を対象に遺伝子解析実施
同研究では、重症アトピー性皮膚炎、脱毛症、自己免疫性甲状腺疾患を発症した男児を対象として、遺伝子解析を行い、原因遺伝子変異の同定とその機能解析を実施した。
新しいJAK1遺伝子変異を同定、インターフェロンγシグナルを選択的に増強
患者とその両親のトリオ全エクソーム解析の結果、患者と父親にJAK1遺伝子の新規変異(p.Pro815Ser)を発見した。この変異はJAK1のPseudokinase Domainに位置しており、これまでに報告されていない新しい変異であった。
患者由来の不死化リンパ芽球細胞株を用いた機能解析では、変異型JAK1がインターフェロンγ刺激に対してpSTAT1シグナルを過剰に活性化することが明らかになった。一方、IL-4刺激によるpSTAT6シグナルやインターフェロンα刺激によるpSTAT1/pSTAT2シグナルの増強は限定的であった。これらの結果から、同変異はすべてのJAK介在シグナルを均等に増強するのではなく、主にインターフェロンγシグナルを選択的に増強することが示された。
JAK阻害剤治療で5か月後に脱毛症寛解、皮膚症状も改善
患者に対してJAK阻害剤による治療を開始したところ、5か月後に脱毛症の寛解が達成され、皮膚に関しても改善が認められた。父親においても治療により皮膚所見の改善と発毛が確認された。
血清サイトカイン解析では、治療前に上昇していたインターフェロンγおよびインターフェロン関連分子が、JAK阻害剤治療後に減少することが確認された。また、患者リンパ芽球細胞株のRNAシーケンス解析では、インターフェロン刺激遺伝子群の発現上昇が認められ、同変異の機能獲得型の性質を裏付ける結果となった。
従来治療に抵抗性を示す重症例へ新たな治療選択肢を提示
同研究により、脱毛症を引き起こす新しいJAK1機能獲得型変異が発見された。JAK阻害剤による治療効果が確認されたことで、従来の治療に抵抗性を示す重症例に対する新たな治療選択肢が提示された。今後、さらなる症例の蓄積により、JAK1遺伝子変異による疾患の診断基準や治療指針の確立が期待される。また、早期から重症のアレルギー・自己免疫症状を示す患者においては、このような単一遺伝子疾患の可能性を考慮し、遺伝子解析を行うことで、適切な診断による病態に応じた個別化治療の実現につながることが期待される、と研究グループは述べている。(QLifePro編集部)
