欧米で承認されたルクスターナ、日本人データが必要とされていた
東京医療センターは9月4日、両アレル性RPE65遺伝子変異による遺伝性網膜ジストロフィ(RPE65網膜症)に対する遺伝子治療薬voretigene neparvovec(ボレチゲン ネパルボベク、製品名:ルクスターナ(R)注)の有効性と安全性を日本人患者で評価し、その成果を論文報告したと発表した。今回の研究は、同センター視覚研究部視覚生理学研究室の藤波芳室長、診療部眼科の秋山邦彦医長、視覚研究部の角田和繁部長らと、ノバルティスファーマ株式会社、地域医療機能推進機構の研究グループによるもの。研究成果は、「Ophthalmology Science」にオンライン掲載されている。

画像はリリースより
RPE65網膜症は、先天性夜盲や視力低下・視野狭窄を呈するまれな疾患で、その原因はRPE65遺伝子の機能喪失である。進行性で、20代までに社会生活が困難となる症例も多く、これまで有効な治療法はなかった。
voretigene neparvovecは、AAV(アデノ随伴ウイルス)ベクターを用いて正常なRPE65遺伝子を網膜色素上皮細胞に導入し、視覚サイクル機能を回復させる世界初の遺伝子治療薬である。欧米では既に承認されていたが、日本人患者における臨床データがなく、日本での使用が困難だった。
遺伝子治療薬の社会実装に向け、2017年より国際連携のもと継続的な取り組みを推進
研究グループでは2017年より、難治性の遺伝性網膜ジストロフィを対象に、電気生理学的病態解析、ゲノム医学研究、AI解析導入、臨床試験デザインなどを推進し、30か国以上との国際連携のもと、行政・大学・研究機関・企業・患者会と協力して研究を展開してきた。
主な成果として、アジア初となる遺伝子補充治療の治験(RPE65・RPGR)の開始と継続、ルクスターナ注の市販後国際調査の開始と継続、国内初のスタルガルト病に対する経口治療の治験(Tinlarebant)、遺伝性網膜ジストロフィにおける遺伝学的検査ガイドラインの策定、遺伝学的診断バリアントの病原性判定基準(ACMG specification)の策定、全視野刺激検査ガイドライン(FSTガイドライン)の制定、IRDゲノム研究推進タスクフォースによる眼科遺伝医学の研究と教育の推進、スタルガルト病患者会(Stargrdt’s connected)の支援などが挙げられる。これらの取り組みの延長として、今回、国内初の眼科領域における遺伝子補充治療薬の社会実装を実現した。
日本人対象の臨床試験実施、視覚機能改善と良好な安全性を確認
RPE65網膜症と診断された日本人患者4人を対象とした臨床試験が実施された。硝子体手術後、両眼にvoretigene neparvovec(1.5×1011vg/0.3mL)を網膜下投与する方法で実施された。
主要評価項目であるFSTでは、1年後に両眼平均で-1.83 log10(cd·s/m2)の改善が認められ、暗所視機能の向上が確認された。副次評価項目として、視野(GP III4e)では平均427.8度の拡大、視力(logMAR BCVA)では平均-0.033の変化が観察された。
安全性については、有害事象はいずれも軽度~中等度であった。重篤有害事象が1例(卵巣嚢腫捻転)認められたが、薬剤非関連と判断された。
これらの結果から、日本人患者においても本治療の有効性と安全性が確認され、国内における遺伝子補充治療導入の基盤が確立された。現在も5年間の長期追跡を継続中である。
日本初の眼科遺伝子治療薬、今後は適用拡大と他疾患への展開を目指す
今回の研究はアジアで初めて実施された第3相臨床試験で、暗所光感度や視野といった視覚機能の改善、ならびに良好な安全性が1年間にわたり確認された。この成果を受けて、ルクスターナ注は日本眼科領域で初めての遺伝子補充治療薬として薬事承認・保険償還に至った。
今後の展望として、長期追跡による効果の持続性と安全性の評価、また、小児例や進行例への適用拡大の検討、他の遺伝性網膜ジストロフィへの応用研究に加え、国際共同研究を基盤とした希少疾患領域での遺伝子治療普及の加速を目指すと、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)