患者ごとの症状が多様で、最適な治療選択・治療開始時期の判断が難しい
大阪大学は6月17日、全身性強皮症患者の血液や臓器の1細胞解析を通じて「腎クリーゼ」や「進行性間質性肺疾患」などの重症例に特徴的な免疫細胞の集団を発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の島上洋氏(博士課程4年)、西出真之講師(呼吸器・免疫内科学)、楢﨑雅司特任教授(先端免疫臨床応用学共同研究講座)、熊ノ郷淳総長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。

画像はリリースより
全身性強皮症では、免疫異常を基盤として皮膚、肺、腎臓、消化管といった多臓器に血管異常と組織線維化を主体とした病変を生じる。日本に2万人以上の患者がいるとされる指定難病だ。さまざまな全身性自己免疫疾患の中でも、ステロイドや免疫抑制剤といった治療法が十分に奏功せず、特に生命予後不良な疾患の一つである。
臓器病変の組み合わせや進行速度は患者ごとに大きく異なり、一見軽症に見えた患者の病態が途中で進行することも珍しくない。このような患者多様性が形作られる機序はよくわかっていないため、個々の患者に最適な治療薬の選択や治療開始時期の決定が十分になされていないのが現状だ。
そこで今回の研究では、新規発症・未治療の全身性強皮症患者および健常人の末梢血を採取し、1細胞解析(遺伝子およびタンパク質発現の網羅的な同時解析)を実施した。
腎クリーゼ患者ではEGR1高発現単球が増加、発現量が発症プロセスと連動
得られた各種細胞集団の頻度を患者ごとに算出した結果、腎クリーゼ患者では単球系細胞集団との関連が、間質性肺疾患を有する患者ではリンパ球系細胞集団との関連が、それぞれ示唆された。
さらに詳細な解析の結果、腎クリーゼ患者の末梢血中では「EGR1」というマクロファージ分化に重要な転写因子が高発現するCD14陽性単球が特異的に増加していることが判明した。
また、腎クリーゼの発症前・発症直後・治療後の3時点で単球の「EGR1」発現を検討したところ、発症直後に上昇し、治療後に低下することがわかった。
腎クリーゼ患者の腎組織でEGR1高発現単球由来マクロファージの集積を確認
さらに研究グループは、同大医学部附属病院消化器内科、腎臓内科、泌尿器科との共同研究のもと、腎クリーゼ患者の病変腎組織を取得し、空間トランスクリプトーム解析で組織切片に発現する遺伝子の位置、種類、量を細胞単位で網羅的に解析した。
その結果、腎クリーゼ患者の腎組織では、「EGR1」高発現単球から分化した「THBS1」高発現のマクロファージが尿細管周囲に集積していることが明らかになった。これが傷んだ腎臓を高度に線維化させ、重篤な腎機能障害に関与していると考えられた。
全身性強皮症+間質性肺疾患ではCXCR3高発現CD8陽性T細胞が増加
一方、間質性肺疾患を有する全身性強皮症患者では、2型インターフェロンによって活性化され、CXCR3高発現で病変肺組織へ積極的に移動する性質を持つCD8陽性T細胞が末梢血中で増加していた。進行性間質性肺疾患の患者の肺組織データを解析したところ、類似した細胞が増加しており、このCD8陽性T細胞が病変肺組織へ移行していることが示唆された。
これらの結果は、全身性強皮症患者における多様な臓器障害の根底に、それぞれ異なる免疫細胞異常が存在するという同グループの仮説を支持するものであった。
内臓障害の発症予測や新たな治療法の開発への活用に期待
今回の研究成果は、全身性強皮症患者の臨床的多様性の根底に存在する免疫異常の相違を明らかとしただけでなく、命に関わる内臓障害を克服するための新たなバイオマーカー、治療ターゲットを提案するものだ。
「難治性病態の代表格である腎クリーゼに関して、単球の「EGR1」発現は発症予測マーカーとなり、「EGR1」や「THBS1」といった臓器線維化にかかわる分子は新規治療ターゲットとなる可能性がある」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)