ApoBに対し、ApoEがどのような機能的役割を果たすのかに着目

東京都医学総合研究所は4月1日、肝細胞におけるアポリポタンパク質を介した新たな脂質代謝制御システムの存在が明らかになったと発表した。この研究は、同研究所免疫制御ユニットの篠﨑ことみ研修生、山根大典ユニットリーダー、お茶の水女子大学・市育代教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Lipid Research」にオンライン掲載されている。

画像: 画像はリリースより

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肝臓内では、通常アポリポタンパク質B(ApoB)という巨大なタンパク質が中性脂肪を内包し、血中に分泌することで肝細胞内の脂質を全身に運搬する役割を担っている。ApoBは肝臓から分泌される際、ミクロソームトリグリセリド輸送タンパク質(MTP)がトリグリセリドを付加することで、その分泌を促すとされる。アポリポタンパク質にはApoB以外にもApoA、ApoC、ApoE等が存在するが、MTPがApoB以外のアポリポタンパク質の分泌をどのように制御するかについては不明だった。特にApoEは、肝臓指向性ウイルスの感染性粒子の細胞外への放出の他、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスの感染効率を左右する重要な因子として知られている。近年の複数のゲノムワイド関連解析により、ApoEの遺伝子多型が脂肪肝リスクと有意に関連することが明らかとなっていることから、脂質輸送において中心的な役割を果たすApoBに対して、ApoEがどのような機能的役割を果たすのかに着目した。

MTP阻害によるApoEの増加がApoB分泌阻害と関連

研究グループはApoB分泌不全時のApoE動態を探るため、ヒト肝がん細胞にMTP阻害剤を添加した際のApoEへの影響を調べた。すると培養上清中及び細胞内のApoEと、APOE遺伝子の転写量の増加が明らかとなった。さらに、APOB欠損細胞においても同様にApoE量が増加したことから、MTP阻害によるApoEの増加はApoB分泌阻害と関連していることが強く示唆された。

ApoEの分泌量は、酵素DGAT1/2によるTG合成に依存

MTPはトリグリセリド(TG)やコレステロールエステル(CE)といった中性脂肪をApoBに付加することでApoBの分泌を促進するが、これらの中性脂肪の代謝がApoEの分泌においてどのような機能を持つのかについてはわかっていなかった。そこで、CEを生合成するステロール-O-アシル基転移酵素(SOAT)と、TGを生合成するジアシルグリセロールアシル基転移酵素(DGAT)の発現を抑制した細胞におけるApoEの分泌量を調べたところ、ApoEの分泌はDGATによるTG合成に依存していることが判明した。DGATにはDGAT1とDGAT2という2つの酵素が存在するが、これら両者が相互補完的にTG合成に関与することでApoE分泌量を制御していることが明らかとなった。

ApoEは細胞内中性脂肪の異常蓄積を抑制すると示唆

アポリポタンパク質は脂質の運搬に重要な役割を果たすことが知られている。そこで、研究グループが見出したApoB阻害時のApoE分泌増加が、脂質代謝の恒常性にどのように影響するのか調べた。まずMTP阻害によりApoBの分泌のみを阻害した際には肝がん細胞内のTG量の増加はわずかであったが、ApoEノックアウト細胞にMTP阻害剤を加えると細胞内のTG量の有意な増加が認められた。以上の結果から、MTP阻害時にApoEの発現量が増加することによってApoE依存的にTGの排出が促進され、細胞内TGの異常な蓄積を抑制する仕組みとして機能していることが示唆された。

ApoEのシアル化修飾が肝細胞内の脂質輸送促進の可能性、ヒト初代培養細胞で確認

一方、ヒト初代肝細胞を用いた検証では肝がん細胞とは異なり、MTP阻害によってApoEのシアル化が顕著に増強されることを発見した。シアル化酵素が欠損していると脂肪性肝疾患を誘発するという報告があることから、初代肝細胞においてみられたApoEのシアル化修飾は、肝細胞内の脂質輸送を促進する働きをもつ可能性が考えられる。

ApoEとApoBの相互補完作用がもたらす疾患解明に期待

今回の研究により、ApoEがApoBの脂質運搬機能を代償することで肝細胞のTG代謝の恒常性を維持している可能性が示された。ApoEやApoBを表面にまとったリポタンパク質様の感染性粒子を放出するC型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスの粒子形成においても同様の機序が働くと考えられることから、このような相互補完的作用は肝炎ウイルスの感染環においても機能し、感染性粒子の組成に影響を与えていることが予想される。

「さらにApoEの遺伝子多型は脂肪肝のみならず、アルツハイマー病の発症とも密接に関連していることから、このApoEを介した中性脂肪代謝制御はこれらの疾患病態を理解する上でも重要な知見となることが期待される」と、研究グループは述べている。(

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