乳がんサバイバーで心不全や骨折、うつなどの発症リスク高

筑波大学は4月1日、医療レセプトデータを解析し、日本人女性の乳がんサバイバーが同年齢の一般女性と比べ、どのような病気をいつどれくらい発症しやすいかを解明したと発表した。この研究は、同大医学医療系社会医学グループデジタルヘルス分野/ヘルスサービスリサーチ分野の岩上将夫教授らの研究グループによるもの。研究成果は「The Lancet Regional Health – Western Pacific」に掲載されている。

画像はリリースより

乳がんは日本を含む世界の国々で罹患率が高いがんである。乳がんは早期発見や治療の向上により、生存率が向上しており、乳がんサバイバーの数も世界的に増加している。ただし、乳がんサバイバーが健康的に長生きするためには、乳がんそのものの治療や経過観察に加え、乳がん以外の健康状態にも注意する必要性が、主に欧米の研究から示唆されている。例えば、欧米の研究からは、乳がんサバイバーは一般女性と比較して、心不全や骨折、不安・うつなどを発症するリスクが高いことが示されている。しかし、日本人を含むアジアからの研究は少なく、また消化管出血や感染症など頻度が比較的高く時に命にかかわる疾患については世界的にも検討されていなかった。

日本の乳がんサバイバー約2.4万人、乳がんのない同年代女性約9.6万人を対象に検討

今回研究グループは、日本の女性乳がんサバイバーにおいて、がん以外の12種類の代表的な疾患(心血管疾患、骨折、出血、感染症、精神疾患を含む)の発症リスクが、同年齢の一般女性と比べてどの程度高いかどうかを検討した。具体的には、全国の健康保険組合に加入する会社員およびその扶養家族の医療レセプトと健診のデータを匿名加工したデータベースを構築している株式会社JMDCの協力を得た。2005年からデータの蓄積が始まり、現在の累積母集団数は約1700万人となっている。医療レセプトから病名、検査、手術、処方などのデータを使用し、健診データからはBMI、飲酒歴、喫煙歴のデータを使用した。

2005年1月~2019年12月の間にデータベースに登録された18~74歳の女性のうち、手術を受けた乳がんサバイバー2万4,017人と、乳がんのない同年齢の女性9万6,068人を解析対象とした(いずれも平均年齢は50.5歳)。2つのグループ間で、6つの心血管疾患(心筋梗塞、、心房細動、脳梗塞、頭蓋内出血、肺塞栓症)と6つの非心血管疾患(骨粗鬆症性の骨折、その他の骨折(例肋骨骨折)、消化管出血、肺炎、尿路感染症、うつ・不安)の発症リスクを比較した。

サバイバーにおける発症リスク、心不全3.99倍、消化管出血3.55倍、肺炎2.69倍

その結果、乳がんサバイバーは、乳がんのない同年齢の女性と比較して、心不全(ハザード比)3.99倍)、心房細動(1.83倍)、骨粗鬆症性の骨折(1.63倍)、その他の骨折(1.82倍)、消化管出血(3.55倍)、肺炎(2.69倍)、尿路感染症(1.68倍)、うつ・不安(3.06倍)の発症リスクが高いことが示された。

乳がん診断1年以内の発症リスク、不安・うつは5.98倍

観察期間を乳がんの診断から1年以内、1年以降(1年から10年)に区切って解析すると、多くの疾患は乳がんの診断から1年以内のハザード比が、それ以降のハザード比よりも高いという結果だった。例えば、不安・うつでは1年以内のハザード比が5.98倍、それ以降が1.48倍だった。

一方、骨折については逆の傾向が見られ、骨粗鬆症性骨折は1年以内のハザード比が1.30倍、それ以降が1.78倍、その他の骨折は1年以内のハザード比が1.28倍、それ以降が2.06倍と、時間が経過してから上昇する傾向が見られた。つまり、乳がんサバイバーの乳がん以外の健康管理において、診断からの経過時間によって注意を向ける疾患が異なることが示唆された。

初期治療ごとに発症リスクが高い疾患も明らかに

診断後1年間の乳がんの初期治療(抗がん剤やホルモン剤)の内容ごとに各疾患の発症リスクを比較検討した。抗がん剤の治療に関しては、2系統の薬剤(例:アンスラサイクリン系とタキサン系)を使用した人は、心不全、骨粗鬆症性の骨折、その他の骨折、消化管出血、肺炎、不安・うつの発症リスクがより高い傾向が見られた。ホルモン治療に関しては、アロマターゼ阻害剤を使用した人は、骨粗鬆症性の骨折、消化管出血の発症リスクがより高い傾向が見られた。

経過観察だけでなく一般的な健康診断の受診も重要

研究結果から、日本の女性乳がんサバイバーが健康的に長生きするためには、医療従事者と患者双方が、乳がん以外の疾患にも目を向けることの重要性が示された。具体的には、乳がんの専門医師が内科などの他科の医師と協力し、各疾患の予防(例:心血管疾患予防のための血圧・血糖・脂質のコントロール)、早期発見(例:心不全や骨粗鬆症のリスクを上げる治療薬を使用した場合、その早期発見のために定期的な心機能検査や骨密度検査を行う)、早期介入(例:不安/うつ病に対すカウンセリング、骨折予防のための骨粗鬆症の治療)に結びつけることが重要だと考えられる。

患者も、乳がんの経過観察のために定期通院するだけでなく、血圧や心電図、血糖の検査など一般的な健康診断(乳がんの経過観察では一般的に行われない検査)も定期的に受けることが重要だ。さらには、運動や食事などを通して健康的な生活を心がけることが、乳がん以外の疾患の発症を予防し健康的に長生きするために大事であると考えられる。「引き続き乳がんサバイバーにおけるヘルスサービスリサーチを行っていく。各疾患の予防・早期発見のために必要な検査や予防的治療が現状でどの程度行われているかを調べて改善点を見つけ、乳がんサバイバーの健康対策にさらに寄与したい」と、研究グループは述べている。(

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