AD患者の3分の2は女性、性差のメカニズムは?

九州大学は4月1日、ミクログリアでGPRC6Aがテストステロン受容体として機能し、ミクログリアのオートファジーが調節されることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院歯学府博士課程4年の杜海妍氏、歯学研究院OBT研究センターの溝上顕子准教授、および歯学研究院口腔機能分子科学分野の兼松隆教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Advanced Science」に掲載されている。

画像はリリースより

発症や病態に性差が見られる疾患は数多く存在する。(AD)もその一つで、男性よりも女性の患者数が圧倒的に多いことが知られている。ADは認知症の中で最も頻度の高い疾患であり、加齢が最大のリスク要因とされている。一般に女性は男性よりも平均寿命が長く、高齢者人口に占める割合が高いため、AD患者数の性差は寿命の違いによるものと考えられがちである。しかし、同じ年齢層で比較しても女性の方が多いことが報告されており、約3分の2が女性とされている。そのため、何らかの生物学的な要因が関与している可能性がある。ADは女性の閉経後に増加してくるため、閉経によるエストロゲンの急激な減少との関連が指摘されてきた。しかし、AD発症に性差が生じる具体的なメカニズムは不明のままだ。今回の研究グループは、これまであまり焦点が当てられてこなかった男性側に、AD発症リスクを抑えるメカニズムがあるのではと考え、研究を進めた。

性ホルモンは、生物学的な性差を生じさせる主要な要因のひとつである。女性は閉経によってエストロゲンが急激に減少し、最終的には男性よりも低くなる。一方、男性のテストステロンレベルは、加齢によって緩やかに減少するものの、生涯にわたって女性よりも高いレベルを維持する。近年、血中テストステロンの低下がADの発症リスクを高めることや、高齢女性に対するテストステロン補充が認知機能を改善することが報告されている。これらの知見は、男性にはテストステロンによるAD発症抑制機構があることを示唆している。

ミクログリアでのAβ処理に寄与のオートファジー、その制御におけるテストステロンの役割を解析

今回の研究では、脳内の免疫細胞であるミクログリアに着目。ADの病態の特徴の一つである、アミロイドβ(Aβ)の蓄積は、神経細胞にとって有害なストレスとなる。正常なミクログリアはAβなどの異常タンパク質を貪食・分解し、脳の恒常性を維持する。しかし、Aβの異常な凝集・蓄積が起こると、ミクログリアが正常に機能できず、不要なタンパク質の除去過程が阻害され、脳内の慢性炎症、ひいては神経細胞死が引き起こされる。この過程に性差があれば、それがAD発症の性差となって表れる可能性がある。ミクログリアのAβ処理機構の1つとして、オートファジーが関与していることが報告されている。オートファジーは、細胞内の不要なタンパク質や細胞成分を分解する機能のことである。今回の研究では、ミクログリアのオートファジー制御におけるテストステロンの役割を解析した。

テストステロンがGPRC6Aを介してmTORシグナルを抑制し、オートファジー活性化

ADモデルマウス(5XFAD)の脳組織切片を用いて、、Aβ、およびオートファジーの指標となるp62を免疫染色により可視化した。その結果、メスの脳内でのAβの蓄積がオスに比べてより顕著であり、さらにミクログリアとp62共局在が増加していることが確認された。これは、ミクログリアに取り込まれたAβの分解がメスで低下していることを示唆している。そこで、オスの5xFADから精巣を摘出してテストステロンレベルを下げたところ、偽手術を施したマウスと比べてAβ蓄積量は顕著に増加した。一方、精巣を摘出後にテストステロンを補充すると、Aβの蓄積量は抑えられた。

ミクログリア由来の培養細胞(MG6)を用いた解析では、テストステロンがオートファジーの誘導を促進し、Aβの分解を有意に亢進することが確認された。さらに、テストステロンはミクログリア細胞膜に発現するGタンパク質共役型受容体GPRC6Aを介してmTORシグナル伝達経路を抑制し、オートファジーを活性化することが示唆された。

ヒトAD患者の脳でもAβ蓄積は男<女、ミクログリアのオートファジー活性は男>女を確認

最後に、男女のAD患者の脳組織切片を解析した結果、女性の方でよりAβ蓄積量が多く、ミクログリアにおけるオートファジー活性が低下していることが確認できた。つまり、女性に比べてテストステロン値の高い男性は、ミクログリアのオートファジーが維持され、Aβ除去能力が高く保たれるため、ADリスクが低く抑えられていると考えられる。

GPRC6Aシグナル標的の治療薬開発に期待

今回の研究は、テストステロンがGPRC6Aを介してmTORシグナルを抑えることでオートファジーを活性化し、ADリスクを抑える可能性があることを示す重要な知見である。今後は、AD患者脳組織におけるAβ蓄積およびオートファジーと、血中テストステロンレベルとの相関について解析を行う必要がある。このような解析を進めることにより、GPRC6Aシグナルを標的とした新しい治療薬の開発につながることが期待される、と研究グループは述べている。(

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