血液中の特定のタンパク質濃度を測定する新たな血液検査が、初期のアルツハイマー病(AD)の発見において、医師の評価よりもはるかに正確であったとする研究結果が報告された。このAPS2(amyloid probability score 2)と呼ばれる血液検査により、軽度認知障害や初期の認知症を有する人がADの病理学的特徴を有することを91%の精度で特定できることが示されたのだ。スカネ大学病院とルンド大学(いずれもスウェーデン)のSebastian Palmqvist氏らによるこの研究結果は、アルツハイマー病協会国際会議(AAIC 2024、7月28日~8月1日、米フィラデルフィア)で発表されるとともに、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に7月28日掲載された。
ADは、脳内でのアミロイドβ(Aβ)の蓄積と神経細胞内へのリン酸化タウの蓄積を特徴とする。APS2は、血中のリン酸化タウ217〔p-tau217〕と非p-tau217の比率、およびAβ42とAβ40の比率(Aβ42/Aβ40)の測定値に基づき、ADの病理学的特徴を特定する。
今回の研究では、プライマリケアおよび二次医療の現場におけるADの血液検査の利用価値が検討された。対象は、2020年から2024年の間にスウェーデンで認知機能障害の症状を理由に臨床検査を受けた1,213人(平均年齢74.2歳、女性48%)で、うち23%には主観的な認知機能低下、44%には軽度認知障害が認められ、33%は認知症の診断を受けていた。検討した血液検査は、質量分析により測定した血漿中のp-tau217と非p-tau217の比率にのみ基づく検査と、これにAβ42/Aβ40を組み合わせたAPS2であった。血液検査の結果は、AD診断の「ゴールドスタンダード」とされている脳脊髄液検査とPET検査の結果を用いた臨床医(プライマリケア医と認知症専門医)の診断と比較された。
その結果、ADの診断精度は、診察と認知機能検査、CT検査の結果を用いたプライマリケア医では61%であったのに対し、APS2とp-tau217と非p-tau217の比率のみに基づく検査ではともに91%であることが明らかになった。認知症専門医が、脳脊髄液検査やPET検査の結果を用いた場合には、診断精度は73%に上昇したが、それでも血液検査の診断精度の方が高かった。
研究グループは、「これらの血液検査で測定した2種類のタンパク質の中では、リン酸化タウの重要性の方が圧倒的に高いように思われる」との見解を示している。なぜなら、リン酸化タウの測定値だけを用いた血液検査でも、ADの診断精度は90%を超えていたからである。
本研究論文の付随論評を執筆した米ブラウン大学のStephen Salloway氏らは、この血液検査は病院で使用できるほど経済的なのか、FDAの承認は得られるのか、APS2検査の診断精度は、他の開発中のADの血液検査の診断精度に劣るのだろうか、などのさまざまな疑問を呈示しながらも、「この研究は、ADの高感度血液検査を、プライマリケアを含めた臨床的な意思決定プロセスに組み込むことが可能であることを確信させるものである」との見解を示している。一方、本研究には関与していない、米ノースウェルヘルス高齢者救急医療のディレクターを務めるTeresa Amato氏は、「われわれが想定している活用法は、次のようなものだ。それは、認知機能が低下している患者に対しては、医師は通常、血液検査を行ってAD以外の認知機能低下の原因を除外するが、その際にこの新しい血液検査も使ってAβとリン酸化タウについて調べるというものだ。これはADのスクリーニング検査になる」と述べている。
ただ、研究グループは、「この血液検査がADの早期診断の唯一の手段になることはない」と強調している。なぜなら、ADは発症するまでに何年もかかることがあり、初期のADに似た症状は他の疾患によって引き起こされることもあるからである。研究グループはこの点について、「ADのバイオマーカー陽性を誤って解釈すると、比較的一般的な非AD疾患の過小診断につながる可能性がある」と説明している。(HealthDay News 2024年7月29日)
Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.
Photo Credit: Adobe Stock