二次性高血圧に関連する副腎異常細胞APCC、その形成メカニズムは未解明
九州大学は10月28日、二次性高血圧の主要な原因である原発性アルドステロン症に関わる新たなメカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の小川佳宏主幹教授、馬越洋宜助教、岩橋徳英特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Hypertension」にオンライン掲載されている。

画像はリリースより
高血圧症は、20歳以上の日本人の2人に1人が罹患している国民病であるが、約10%は二次性高血圧と呼ばれ、特定の原因疾患により引き起こされる。原発性アルドステロン症は二次性高血圧の主要な原因疾患であり、副腎からアルドステロンというホルモンが過剰に分泌されることで血圧が上昇する。
副腎は、脳の視床下部-下垂体-副腎系(HPA axis)を介してストレス応答を調節する重要な臓器である。ストレス刺激により脳から副腎皮質刺激ホルモンが分泌され、副腎のホルモン産生を促進する。
近年、副腎にアルドステロン産生細胞クラスター(APCC)と呼ばれる異常な細胞集団が、高齢者や原発性アルドステロン症患者で高頻度に観察されることが報告されている。APCCの一部が腫瘍と同じ遺伝子変異を持つため、腫瘍の前段階病変である可能性が指摘されていた。しかし、APCCがどのように形成されるのか、そのメカニズムは全くわかっていなかった。
遺伝子発現解析により、ストレスによるNR4A2活性化がAPCC形成促すと判明
この研究では、最先端の空間トランスクリプトミクスとシングルセルRNAシーケンス解析を組み合わせ、同一患者から採取した正常な副腎組織、APCC、腫瘍の遺伝子発現を詳細に比較した。その結果、以下の3点が明らかになった。
第1に、APCCは腫瘍とは異なる独自の遺伝子発現パターンを示し、正常な副腎組織により近い特徴を保持していることを明らかにした。
第2に、ストレス応答性転写因子NR4A2がAPCCで高い活性を示すことを発見した。さらに、培養細胞を用いた実験とコンピューターシミュレーションにより、NR4A2が正常細胞からAPCCへの変化を促進することを確認した。
第3に、副腎皮質刺激ホルモンなどのストレス刺激がNR4A2を活性化し、副腎細胞においてAPCCに近い性質に変化することを明らかにした。実際の患者データからも、APCCを持つ患者では副腎皮質刺激ホルモン刺激に対する反応性が高いことが確認された。
二次性高血圧の病態理解を深める成果、より多くの患者サンプル用い検証予定
この研究により、ストレス応答がAPCC形成の重要な引き金となることが明らかになった。「これは、原発性アルドステロン症の発症過程における新たな知見であり、二次性高血圧の病態理解を深める重要な成果である。今後、より多くの患者サンプルを用いた検証により、APCCの多様性や腫瘍への進展メカニズムの全容解明が期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)