ADの指標として重要なAPOE、東アジア人の希少バリアントは知見乏しい

新潟大学は6月2日、日本人を対象として認知症などのゲノム解析を展開する中で、)の発症リスクを低下させる可能性のあるまれなアミノ酸置換を伴う遺伝子変異(レアミスセンスバリアント:RMVs)を、アポリポタンパクE遺伝子()に見出したと発表した。この研究は、同大脳研究所遺伝子機能解析学分野の宮下哲典博士(准教授)、池内健博士(教授)らと、国内の複数の医療・研究機関の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Alzheimer’s Disease」に掲載されている。

画像はリリースより

ADは高齢者に最も多い認知症である。その発症や進行には加齢や生活習慣に加え、遺伝要因が深く関与している。ゲノムワイド関連解析などにより、これまでに90ほどの遺伝子座・バリアントが同定されている。なかでも染色体19番長腕に位置するAPOEは、ADとの関連が極めて顕著なAD感受性遺伝子である。単独で、かつ強力にADの発症や進行を左右する。特にe4アリルはADの発症を若年化させるとともに、感受性遺伝子でありながら原因遺伝子ほどの影響力があることが最近の研究からわかってきた。

ここ最近の抗アミロイドベータ(Aβ)抗体医薬の実用化に伴い、副作用であるアミロイド関連画像異常(ARIA)のリスク評価においても、APOEの遺伝型は重要な指標とされている。特にe4アリル保有者ではARIAの発症頻度が高いことが示されて、個別化医療の観点から、APOEの意義が今まさに再考され、その重要性が再認識されている。

ADを取り巻くこのような背景も相まって、欧米では近年、APOEにおけるRMVsが、新たなAD関連因子として関心を集めている。一方で、日本人を含む東アジア人においては、これらRMVsの存在、集団内頻度、ADや末梢コレステロールとの関連については知見が乏しく、その実態はほぼ未解明だった。

日本人対象にAPOEのRMVs探索・ADとの関連を検討

今回の研究では、日本人を解析対象としてAPOEのRMVsを同定し、整理することをまずは目的とした。また、同定されるRMVsは日本人に特有なのか、ADとの遺伝学的な関連はあるのか、末梢コレステロールレベルとの関連はどうなのか。これらを明らかにすることも目的とした。

日本人コホートである「・NIG」(2,589人)と「・ToMMo」(3,307人)に含まれる計5,896人を対象に、APOEのRMVsを探索した。また、AD患者6,261人と健常対照者1万6,331人を用いたケース・コントロール研究を行い、同定されたRMVsがADと遺伝統計学的に関連するかどうかを検討した。さらに、APOE RMVsの保有者と非保有者との間で、末梢コレステロールの量に差があるのかどうかを検証した。

東アジア人特有のe7アリル、保有でAD発症リスクが30%低下と判明

14個のAPOE RMVsを同定した(マイナーアリル頻度=0.02~0.73%)。そのうち「rs140808909(p.Glu262Lys)」と「rs190853081(p.Glu263Lys)」の2個は隣接して存在し、APOEのコモンミスセンスアリルの1つであるe3アリルを背景として、完全連鎖不平衡(r2=1)の関係、すなわち、一方の塩基(ヌクレオチド)が決まるともう一方が必然的に決まる関係にあることがわかった。この組み合わせ(ハプロタイプ)は、過去に日本人によって脂質異常症との関連で「e7アリル」として報告されていた。

ケース・コントロール研究によって、このe7アリルはADに対して保護的であることが示された(オッズ比=0.70[95%信頼区間=0.54~0.92])。これはe7アリルを保有する人のAD発症リスクが、保有しない人のそれと比べて、低いことを意味する。ただし、この保護的効果はe4アリルで調整すると統計学的な有意差を失うことから、e4アリル依存的であり、かつ、その効果は背景であるe3アリルに起因する可能性が考えられた。

公共のゲノムデータベースを検索したところ、e7アリルは欧米人などでは認められず、東アジア人に限定的であることが確認された。これは、APOEの遺伝的多様性とAD感受性との関係が、人種によって異なることを示唆している。

e7アリルの保護効果を活用した新治療法・予防戦略の開発にも期待

今回の研究では、日本人を含む東アジア人に限定的なAPOE RMVsとADとの関連を精査した。このような人種特異的なRMVsは特定の集団に特化した予防医学や個別化医療の発展に貢献するものと期待される。今後、e7アリルとADとの関連を確証するために、より大規模な東アジア人集団での追試や国際共同研究によるメタ解析を実施する予定である。「将来的には、e7アリルが示す保護的な効果を活かした新しい治療法や予防戦略の開発へつなげたいと考えている」と、研究グループは述べている。(

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