認知症患者の3分の2を占めるアルツハイマー病、治療薬開発が課題

近畿大学は11月13日、アミノ酸の一種である「アルギニン」が、アルツハイマー病の原因となるタンパク質「アミロイドβ」の凝集を抑えることを明らかにし、アルギニンの経口投与がアルツハイマー病に対して治療効果を発揮することを複数の疾患モデル動物で確認したと発表した。この研究は、同大医学部内科学教室(脳神経内科部門)の永井義隆主任教授、同大大学院医学研究科医学系専攻博士課程4年の藤井佳奈子氏、同大ライフサイエンス研究所の武内敏秀准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Neurochemistry International」にオンライン掲載されている。

画像はリリースより

アルツハイマー病は、最も代表的な認知症を引き起こす神経変性疾患である。大脳の神経細胞が徐々に変性・脱落することで物忘れや判断力の低下などが起こり、認知機能が徐々に低下する。現在、日本では600万人以上の認知症患者がいると推定されているが、そのおよそ3分の2をアルツハイマー病が占めると考えられている。高齢化に伴って年々患者数が増加しており、治療薬の開発が強く求められている。

アルギニンの多岐にわたるタンパク凝集抑制作用に注目

アルツハイマー病の原因の一つは、アミロイドβとタウというタンパク質が脳内で凝集して異常に蓄積することだと考えられている。このうち、特にアミロイドβの蓄積を抑えて病気の進行を食い止めようとする研究が進められており、なかでも、令和5年(2023年)に認可されたアミロイドβ抗体医薬は、アミロイドβの蓄積を強く抑えることでアルツハイマー病に対して治療効果を発揮するとして、現在一部の患者に使用されている。しかし、抗体医薬は高価であり、現時点では治療効果が限定される一方で副作用の問題もあることから、多くの患者に使用可能な安全で安価な治療薬の開発が求められている。

研究グループはこれまでに、アミノ酸の一種であるアルギニンが、脊髄小脳変性症やハンチントン病を含むポリグルタミン病という別の神経変性疾患の原因となる凝集性タンパク質(ポリグルタミンタンパク質)の凝集を抑え、ポリグルタミン病に対して治療効果を発揮することを報告している。そこで、タンパク質の立体構造を安定化させる作用を持つアルギニンが、アミロイドβの凝集も抑制する可能性について検討を行った。なお、アルギニンはサプリメントとして市販されているが、研究で使用しているものとは用法、用量が異なる。

アルギニンがアミロイドβ凝集を濃度依存的に抑制

結果、アミロイドβは試験管内で時間とともに徐々に凝集するが、あらかじめアルギニンを加えておくと、アミロイドβの凝集量が減少することが明らかになった。また、この効果はアルギニンの濃度が高いほど顕著であることがわかった。このことからアルギニンは、ポリグルタミン病の原因となるポリグルタミンタンパク質だけでなく、アミロイドβに対しても凝集を抑える働きを持つことが確認された。

モデル動物で経口投与の治療効果を実証、マウスで行動異常と神経炎症が改善

そこで研究グループは、アルツハイマー病のモデル動物にアルギニンを投与し、治療効果を調べた。まず、アルツハイマー病のモデルショウジョウバエに対し、アルギニンをエサに混ぜて経口投与したところ、アミロイドβの蓄積が顕著に減少し、細胞毒性が軽減することがわかった。

次に、アルツハイマー病のモデルマウスに対し、アルギニンを飲水により経口投与したところ、脳内のアミロイドβ蓄積が減少するとともに、神経変性に伴う行動異常が改善し、過剰な神経炎症が抑制されることがわかった。

安全・安価な分子標的治療薬として、早期臨床応用に期待

今回の研究により、アルギニンがアミロイドβの凝集を抑え、アルツハイマー病に対して治療効果を発揮する可能性が示された。今後、アルツハイマー病におけるアミロイドβを標的とした分子標的治療薬として、アルギニンの早期の臨床応用が期待される。

「これまでの研究で、アルギニンがポリグルタミン病に対して有効であることを確認している。アルギニンは、日本で医薬品として承認されており、先天性尿素サイクル異常症やミトコンドリア脳筋症の患者への投与実績から、人体への高い安全性と脳移行性が確認されている。本研究において、アルギニンがアミロイドβの凝集を抑え、疾患モデル動物での治療効果が示されたことから、アルツハイマー病におけるアミロイドβを標的とした安全で安価な分子標的治療薬として、早期の臨床応用が期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部新規ウィンドウを開きます

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