臨床用の細胞培養に重要なhPL、課題は十分な原材料の確保
北海道大学は5月26日、廃棄予定の白血球除去フィルターから回収した血小板と血漿を用いたヒト血小板溶解物(f-hPL)の製造に成功し、その有効性を実証したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の藤村幹教授らの研究グループと株式会社RAINBOW、日本赤十字社北海道ブロック血液センターとの共同研究によるもの。研究成果は、「Stem Cell Research & Therapy」にオンライン掲載されている。

画像はリリースより
再生医療や細胞治療の実用化には、細胞の大量培養が不可欠となっている。これまでの細胞培養では、ウシ胎児血清(FBS)が一般的に使用されていたが、免疫反応や倫理的懸念、動物由来感染症のリスクなどの課題があった。ヒト血小板溶解物(hPL)は、FBSに代わる有望な選択肢だが、ヒト由来の原料確保が難しく、臨床用に十分な量を製造することは困難とされてきた。
今回の研究では、血液製剤の製造に使用される白血球除去フィルターに大量の血小板が捕捉されていることに着目し、廃棄予定のフィルターから回収した血小板と血漿を用いてhPLの製造を試みた。
従来品と同等以上の性能を持つhPL製造に成功、大量培養にも対応可能
一つのフィルターからは、3.5×1010個の血小板を回収(平均回収率37.1%)することができた。これを原料として作製したhPL(f-hPL)は、最適なタンパク濃度(27mg/mL)では市販FBSの4倍、商用hPLと同等以上の間葉系幹細胞(MSC)増殖能を発揮した。f-hPLを用いたMSCはInternational Society for Cell & Gene Therapy(ISCT)の基準を満たす表面マーカーを発現し、3系統(脂肪・骨・軟骨)への分化能も保持していた。加えて、自動細胞培養装置(Quantum)による臨床スケールでの大量培養にも成功し、90%以上の細胞生存率を実現した。
持続可能な再生医療資源を確保し、実用化を加速する研究成果
今回の研究によって、これまで廃棄されていた白血球除去フィルター内の残存血小板・血漿成分を有効活用し、MSCの高効率培養を可能とする「再生医療用サプリメント(f-hPL)」の製造法を確立できた。
血液製剤の製造過程で生じる副産物を有効活用することで、既存インフラを利用した低コストかつ持続可能な細胞治療基盤が構築可能になる。特に、血小板の安定供給が課題となっていたhPL製造に対し、現実的な解決策を提示する成果だ。
また、今回作製されたf-hPLは、FBSや商用hPLと比較してMSCの増殖能が顕著に高く、臨床グレードの細胞製品を高品質・高効率で製造できる可能性が示された。細胞老化の抑制効果や分化能の保持といった特性も確認されており、再生医療等製品のGMP製造工程への応用が期待される。
医療廃棄物を再資源化し、SDGsにも貢献
白血球除去フィルターはこれまで医療廃棄物として処理されていたが、同研究はこれを「再生可能資源」として位置づけ、医療分野における資源循環モデルを構築した。これは国連の持続可能な開発目標(SDGs)12「つくる責任・つかう責任」にも合致する先導的な取り組みだ。
「今後は、GMP準拠の製造プロセス開発と各種臨床研究への展開に向け、学術機関や企業との連携を強化していく。また、本製法を用いたhPL製品の商用化や国際的な供給体制の構築も視野に入れており、再生医療の普及と産業化に貢献する新たなプラットフォームとしての展開が期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)