肺がん治療に不可欠なICI、ILD合併患者は安全性懸念で臨床試験の対象外だった

浜松医科大学は10月20日、厚生労働省の匿名医療保険等関連情報データベース(NDB)を用いたリアルワールドデータ研究を行い、間質性肺炎(ILD)を合併した非小細胞肺がん(NSCLC)の患者情報を抽出し、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の治療を受けた患者(ICI群)と、細胞障害性抗がん剤のみの治療を受けた患者(抗がん剤群)の全生存期間と薬剤性肺障害の発症率を比較したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院腫瘍センターの柄山正人講師、第二内科の宮下晃一診療助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Thorax」に掲載されている。

画像はリリースより

ICIは、近年のがん薬物治療における最大の革新であり、従来の細胞障害性抗がん剤をしのぐ有効性を示し、さまざまながん種で広く使用されている。肺がんはその中でもICIがいち早く導入されたがん種であり、今や肺がん治療においてICIは欠かすことのできない標準治療となっている。

ILDは肺がん発症の危険因子として知られており、肺がん患者の約10%が、診断時にILDを合併していると言われる。しかし、ILDを合併した肺がん患者は、ICIによる重篤な副作用の一つである薬剤性肺障害のリスクが高いと考えられてきたため、これまでに行われてきたICIの臨床試験において、治療対象から除外されてきた。このため、ILDを合併した肺がん患者に対するICIの有効性と安全性は不明であった。

実臨床におけるICIの使用経験が蓄積され、その有効性から得られる恩恵の大きさを実感し、さらに薬剤性肺障害マネージメントが浸透してくるに従って、ILDを合併しているだけでICI治療の適応から除外してしまうのは、治療機会の損失になるのではないかという考えも広がりつつあった。しかし、ILDを合併した肺がん患者に対してICIを投与する大規模な比較臨床試験を行うことは、安全性の観点から困難と考えられてきた。

ILD合併NSCLC患者8,110例の実臨床データ解析、ICI群で死亡リスク約30%減と判明

そこで研究グループは、厚生労働省のNBDを用いて、ILDを合併したNSCLCの患者情報を抽出し、ICI治療を受けた患者(ICI群)と、細胞障害性抗がん剤のみの治療を受けた患者(抗がん剤群)の全生存期間と薬剤性肺障害の発症率を比較する臨床研究を行った。

研究では、2013年~2020年の期間において、1,748例のICI群と6,362例の抗がん剤群を抽出した。この全体集団においてランドマーク解析を行ったところ、3・6・9・12か月のいずれのランドマーク時点でも、ICIは抗がん剤と比較して有意に全生存期間が良好で、約30%の死亡リスク減少を示した。

薬剤性肺障害リスクは3倍も生存期間への影響はなし、初回ICI治療で死亡リスク40%減

一方、ICI群は抗がん剤群と比較して約3倍の薬剤性肺障害の発症リスク(3年累積発症率6.3% vs. 2.5%)を示したが、薬剤性肺障害の発症例は、非発症と比較して全生存期間は同等であった。

次いで、ICIを初回に使用した753例の患者(初回ICI群)を抽出し、傾向スコアマッチ法で背景因子をマッチさせた753例の抗がん剤群(matched抗がん剤群)を抽出した。初回ICIはmatched抗がん剤と比較して有意に全生存期間が良好で、約40%の死亡リスク減少を示した。

日本の大規模な実臨床データを用いた今回の研究の成果から、ILD合併のNSCLCにおいて、抗がん剤治療と比較して、ICI治療は薬剤性肺障害のリスクを増加させるものの、全生存期間を延長させることが示された。

データ限界あるがILD合併肺がんでのICI効果を確認、個別化医療にもつながると期待

今回の研究においてILDを合併したNSCLCでもICI治療が生存利益をもたらす可能性が示された。大規模な実臨床データから、ランドマーク解析や傾向スコアマッチング法によって各種バイアスを最小化して得られた今回の研究の結果は、日本の肺がん診療を考える上で重要なデータを示した。一方で、後ろ向きのデータベース研究であるため、各種統計手法をもってしても選択バイアス(=ICI治療が効きやすい、あるいは薬剤性肺障害リスクの小さいと思われる患者が意図的に選択されて投与された可能性)を完全に除外しきれていない点や、ILD合併肺がんに対する治療を考える上でのいくつかの重要なデータが欠如している点が問題点として挙げられる。

今後は、ILDを合併した肺がん患者において、どのような患者であればICI治療を安全かつ有効に行うことができるかを明らかにしていく必要がある。現在、同研究グループでは、県内の共同研究施設とともに、複数の専門医が、がん治療前の胸部CT画像を解析し、ILDに伴う線維化レベルを評価し、その後の薬剤性肺障害のリスクとの関連を調べる多施設共同研究を行っている。「この研究によって、ILD合併肺がんにおいて、がん治療前にリスクを評価し、患者ごとのリスクに応じた治療選択を行うことができる個別化医療の確立を目指している」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部新規ウィンドウを開きます

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