重要ながん標的KRAS、阻害薬の効果が限定的な理由は未解明だった

愛知県がんセンターは8月30日、がんの薬物療法に使用される分子標的薬の新たな耐性メカニズムを発見し、その克服法を示したと発表した。今回の研究は、同センターがん標的治療トランスレーショナルリサーチ分野の衣斐寛倫分野長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports Medicine」にオンライン掲載されている。

画像はリリースより

ヒトの細胞には、正常に働くための「設計図(遺伝子)」が組み込まれている。この設計図に異常が起きると、がんの原因になることがある。分子標的薬は、そのような異常な遺伝子によって過剰に働くタンパク質を狙い、働きを抑える薬である。現在、さまざまな分子標的薬が治療に使われている。その中でもKRAS遺伝子の異常は、がん全体の約20%で見つかる重要な異常であるが、長年薬で狙うことが難しい標的だった。近年、新しい創薬技術によって阻害薬が承認されたが、すべての患者に効果があるわけではなく、その理由を解明し新たな治療法を開発することが求められている。

CD47がマクロファージを回避、PD-L1でT細胞を抑制する二重の回避機構が判明

研究グループは、KRAS阻害薬を投与した後のがん細胞を詳しく観察した。その結果、生き残ったがん細胞は、免疫細胞の一種で”掃除役”を担うマクロファージに対し「食べないで」という合図になる分子CD47を細胞表面に増やすことを発見した。

また、CD47を抗体でブロックすると、がん細胞はマクロファージに食べられるようになるが、その一方で食べたマクロファージはPD-L1分子を出し、別の免疫細胞T細胞の働きを抑えてしまうこともわかった。

それぞれを標的とする3つの薬を併用、KRAS異常マウスで持続的な治療効果を発揮

免疫チェックポイント阻害薬は、このT細胞のブレーキを外す薬である。そこで研究グループは、KRAS阻害薬、CD47抗体、免疫チェックポイント阻害薬の3つを組み合わせる治療を、KRAS異常をもつマウスで試した。その結果、腫瘍が消え、効果が1年以上続いた。

3剤併用という新たな治療戦略を提示、臨床試験開始に期待

現在、KRAS阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬の併用は複数の臨床試験で検証が進んでいる。免疫チェックポイント阻害薬とCD47抗体の組み合わせの開発も進行中である。「今回の発見を踏まえ、KRAS阻害薬・免疫チェックポイント阻害薬新規ウィンドウを開きます・CD47抗体の3剤併用療法の臨床試験の開始が期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部新規ウィンドウを開きます

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