非臨床試験・P1試験でエボルパセプトの良好な抗腫瘍効果と安全性が示された

国立がん研究センターは9月30日、HER2陽性切除不能または転移性胃・食道接合部腺がんに対する二次または三次治療として、CD47阻害薬エボルパセプト、トラスツズマブ、ラムシルマブおよびパクリタキセル併用療法の有効性・安全性を検証する国際共同P2/P3試験「ASPEN-06」のP2部分を実施した結果、奏効割合(ORR)は全患者集団で40.3%、新規生検によりHER2陽性が確認された患者では54.8%で、対照群を上回る抗腫瘍効果が認められたと発表した。この研究は、同センター東病院消化管内科の設楽紘平科長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Medicine」に掲載されている。

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画像はリリースより

HER2陽性進行胃・食道接合部腺がんでは、一次治療としてトラスツズマブを含むHER2標的療法が標準治療となっているが、多くの患者では治療耐性が出現し病勢進行を認める。また、耐性獲得後にはHER2発現が低下あるいは消失する症例が存在することから、HER2標的治療の恩恵を受ける患者を適切に選択することが重要と考えられている。

CD47はマクロファージに対する「Don’t eat me signal」として知られる免疫チェックポイント分子であり、多くの悪性腫瘍で高発現している。腫瘍細胞はCD47を介して抗腫瘍免疫機構から逃避しているが、エボルパセプトはCD47とSIRPαの結合を阻害することで、トラスツズマブによる抗体依存性細胞貪食(Antibody-dependent cellular phagocytosis:ADCP)を増強するよう設計された融合蛋白。非臨床試験およびP1試験では良好な抗腫瘍効果と安全性が示されていた。

全患者集団で40.3%、新規生検でHER2陽性が確認された患者で54.8%の奏効割合

ASPEN-06試験P2部分では、HER2陽性の切除不能または転移性胃・食道接合部腺がん患者を対象に、エボルパセプト、トラスツズマブ、ラムシルマブ、パクリタキセル併用療法(evo+TRP群)と、トラスツズマブ、ラムシルマブ、パクリタキセル併用療法(TRP群)を比較する無作為化試験を実施した。対象患者は10か国49施設から登録され、127例をevo+TRP群(63例)またはTRP群(64例)に無作為に割り付けた。主要解析のデータカットオフは2024年5月24日だった。

主要評価項目は奏効割合で、全体集団における担当医評価による奏効割合は、evo+TRP群で40.3%、TRP群で26.6%だった。また、新規腫瘍生検によりHER2陽性維持が確認された患者集団では、evo+TRP群の奏効割合は54.8%、TRP群では23.1%で、両集団ともエボルパセプト追加による上乗せ効果が認められた。一方で、事前に設定された従来の標準治療(ラムシルマブ、パクリタキセル併用療法)に基づく閾値(30%)を統計学的に有意に上回るという評価項目は満たさなかった。

奏効期間中央値は、全体集団および新規生検HER2陽性集団のいずれにおいてもevo+TRP群で15.7か月、TRP群で7.6か月と、奏効の持続期間が延長する傾向が認められた。無増悪生存期間(PFS)中央値は全体集団で7.5か月対7.4か月、新規生検HER2陽性集団で9.0か月対7.4か月だった。なお、全生存期間については解析時点では未成熟で、両群間で明らかな差は認められていなかった。

さらに、成熟した追跡データ(2025年5月15日データカットオフ)を用いて、HER2発現保持およびCD47発現に関する探索的バイオマーカー解析を実施した。HER2発現保持は、新規腫瘍生検または血中循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA:ctDNA)でHER2遺伝子増幅を認める症例と定義した。このHER2保持症例では、evo+TRP群の奏効割合は48.9%、TRP群は25.0%で、奏効期間中央値も15.7か月対9.1か月と改善傾向が認められた。無増悪生存期間のハザード比は0.72だった。

HER2保持症例において腫瘍細胞膜でCD47強陽性(IHC3+)細胞が5%以上認められるCD47高発現群では、evo+TRP群の奏効割合は63.6%、TRP群は23.1%だった。奏効期間中央値は25.5か月対8.4か月、無増悪生存期間中央値は19.5か月対7.0か月で、PFSのハザード比は0.38と良好な結果が得られた。一方、CD47低発現群では奏効割合(36.4%対30.0%)、無増悪生存期間(ハザード比 1.48)のいずれについてもエボルパセプト追加による有効性は認められなかった。

また、HER2保持が確認されなかった症例でも、CD47発現にかかわらず有効性は認められなかった。これらの結果は、エボルパセプトの効果にはHER2発現の維持とCD47高発現の両方が重要である可能性を示唆している。

安全性解析においては、evo+TRP群では好中球減少や貧血などの血液毒性、および下痢がやや多く認められたものの、発熱性好中球減少の頻度は低く、重篤な新規安全性シグナルは認められなかった。有害事象によるエボルパセプト中止は7.9%で、全体として安全性プロファイルは管理可能で、既知の各薬剤の安全性と概ね一致していた。

さまざまながん種や治療へのCD47標的治療の応用に期待

今回の研究は、HER2陽性進行胃・食道接合部腺がんに対するCD47阻害療法の有効性を示すとともに、今後の患者選択におけるHER2保持およびCD47発現のバイオマーカーとしての評価の重要性を示唆した無作為化試験だ。また、研究では、再生検あるいは血中ctDNA解析によるHER2保持の評価が、CD47阻害療法の対象患者選択に有用である可能性も示された。さらにCD47発現を組み合わせることにより、より高い治療効果が期待できる患者集団を同定できる可能性も示唆された。これらの知見は、今後のCD47標的治療の開発や個別化医療の発展につながることが期待される。

なお、ASPEN-06試験はP2パートに続いてP3パートを実施する計画だったが、HER2陽性胃・食道接合部腺がんの二次治療においてトラスツズマブ デルクステカン(trastuzumab deruxtecan)が新たな標準治療となったことや、ザニダタマブ(zanidatamab)を含む新たな一次治療の開発などにより治療体系が大きく変化したことから、P3パートは実施されなかった。

「本研究で得られた結果は、CD47を介した貪食抑制シグナルを阻害することで、腫瘍細胞を認識する抗体製剤による抗体依存性細胞貪食(ADCP)を増強するという治療戦略を支持すると考えられる。今後、HER2以外の腫瘍抗原を標的とする抗体製剤との併用を含め、CD47標的治療をさまざまながん種や治療に応用していくことが期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部新規ウィンドウを開きます)

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